大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和45年(行ウ)235号 判決

東京都中央区銀座七丁目七番六号

有限会社 アスターハウス

原告

加藤幸三郎

右代表者代表取締役

加藤幸三郎

右訴訟代理人弁護士

小松不二雄

東京都中央区新富町三丁目三番

被告

京橋税務署長

右訴訟代理人弁護士

島村芳見

右指定代理人

三上正生

渡辺昭寿

須田光信

主文

1  被告が昭和三六年二月二四日原告の昭和三二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度についてした更正及び重加算税賦課決定のうち、所得金額四五、八五九、一八五円を超える部分を取り消す。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和三六年二月二四日原告の昭和三〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税についてした再更正及び重加算税賦課決定のうち法人税の課税標準四、五七一、六八七円を超える部分を取り消す。

2  被告が前同日原告の昭和三一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税についてした再更正及び重加算税賦課決定のうち法人税の課税標準一一、七二七、四四〇円を超える部分を取り消す。

3  被告が前同日原告の昭和三二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税についてした更正及び重加算税の賦課決定を取り消す。

4  被告が昭和四一年二月二八日原告の昭和三五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税についてした更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

5  被告が前同日原告の昭和三六年二月分の源泉所得税についてした納税告知及び不納付加算税賦課決定を取り消す。

6  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求の原因

一  原告は、キャバレー等の飲食店を営む有限会社であるが、昭和三〇年一月一日から同年一二月三一までの事業年度(以下「昭和三〇年度」という。)、同三一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和三一年度」という。)、同三二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和三二年度」という。)及び同三五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和三五年度」という。)の各年度の法人税について、原告のした確定申告並びにこれらについて被告のした更正ないし再更正(以下昭和三〇年度及び同三一年度の各再更正並びにその余の年度の更正を「本件更正ないし再更正」といい、またこれらを一括して「本件各更正」という。)及び加算税の賦課決定(以下「本件重加算税賦課決定ないし本件過少申告加算税賦課決定」と、またこれらを一括して「本件各決定」という。)、これらの課税処分に対する不服申立の経緯、被告が原告の昭和三六年二月分の源泉所得税についてした納税告知(以下「本件納税告知」という。)及び不納付加算税賦課決定(以下「本件不納付加算税賦課決定」という。)並びにこれらに対する不服申立の経緯は別表一の1ないし5記載のとおりである。

二  しかし、被告のした本件各更正(昭和三五年度については審査裁決により維持された部分)及び本件納税告知は、次のとおり違法であり、また本件各更正及び本件納税告知を前提としてなされた本件各決定及び本件不納付加算税賦課決定は違法であり、いずれも取消しを免れない。すなわち、

1  原告の昭和三〇年度ないし同三二年度の法人税の確定申告は、いずれも青色申告書によるものであるから、被告のした昭和三〇、三一年度の再更正及び同三二年度の更正の各通知書には理由の附記を要するところ、いずれの通知書にも理由の附記がないから、右各再更正ないし更正は違法である。

もっとも、被告は、昭和三三年五月三〇日付で原告の昭和三〇年度以降の事業年度について青色申告の承認を取り消したが、右取消しは、次のように、原告のした前記の各申告が青色申告書によるものであることを左右するものではない。

(一) 被告のした右青色申告の承認取消しには遡及効がないから、原告のした前記各申告が青色申告書によるものであることに変わりはない。

(二) 仮にそうではないとしても、被告のした青色申告の承認取消しの通知書には、取消しの具体的理由を附記しなければならない(最高裁昭和四九年四月二五日第一小法廷判決参照)ところ、被告は、何ら理由を附記しておらず、この理由附記を欠く瑕疵は重大かつ明白であるから、被告のした前記青色申告の承認取消しは無効である。従って、原告のした前記各申告が青色申告書によるものであることに変わりはない。

(三) 仮に、右青色申告の承認取消しが有効で、原告のした申告が青色申告書によるものでないとしても、理由附記を要する根拠が徴税官吏の恣意の抑制を図ることにあるとすれば、明文の有無にかかわらず、更正通知書に理由の附記を要するものと解すべきで、これを欠くときは、更正は違法となるものである。

2  税務署長のした更正について上級官庁である国税局長に対し審査請求がなされた場合、国税局長は、速やかに審理を遂げて裁決すべきであり、正当な理由なく裁決をしないでこれを放置し、係争事業年度についての確定申告の日から起算して一〇年あるいは審査請求の日から起算して五年をそれぞれ経過した場合には、当該更正は、審査請求の対象とされた部分において取り消されるべき瑕疵をおびるものと解すべきである。このことは、更正について五年の除斤期間を設け、また、不服申立期間を定める等租税法律関係を早期に確定させようとする国税通則法の立法趣旨等から導びかれるものである。

ところで、被告のした昭和三〇、三一年度の再更正及び同三二年度の更正について、原告は、昭年三六年三月二三日再調査請求をし、これはいずれも同年五月三〇日東京国税局長に対する審査請求とみなされたものであるが、これらに対する裁決がされたのは昭和四五年二月一九日であり、その裁決書謄本が原告に送達されたのは同年三月一一日であった。そうすると、右東京国税局長は原告の審査請求に対して決裁せずにこれを放置し、原告のした右各年度の確定申告の日から起算して一〇年以上、原告のした再調査請求が審査請求とみなされた日から起算しても五年以上経過したことになり、右各年度の再更正ないし更正は、取り消されるべき瑕疵をおびるに至ったというべきである。

3  被告がした本件各更正のうち、昭和三〇、三一年度の再更正についてはそれぞれの更正に係る課税標準を超える部分、昭和三二年度及び同三五年度についてはそれぞれの確定申告に係る課税標準を超える部分は、いずれも原告の所得を過大に認定したものであるから違法である。

4  被告がした本件納税告知が違法であることは後記第六の九に記載したとおりである。

三  よって、本件各更正及び本件納税告知並びにこれらを前提とする本件各決定及び本件不納付加算税賦課決定の各取消しを求める。

第三請求の原因に対する認否

一  請求の原因一は認める。

二  同二の冒頭の主張は争い、その1のうち昭和三〇、三一年度の再更正及び同三二年度の更正の各通知書に理由の附記がないこと、被告が昭和三三年五月三〇日付で原告の昭和三〇年度以降の事業年度について青色申告の承認を取り消したことは認めるが、その余の主張は争う。右1の(一)の主張は争い、同(二)のうち被告のした青色申告書の提出承認の取消通知書に理由の附記がないことは認めるが、その余の主張及び同(三)の主張は争う。

三  同2のうち、原告が主張するとおり被告に対し再調査請求をし、これが審査請求とみなされた経緯及びこれに対する裁決がされた日、裁決書謄本が原告に送達された日が原告主張のとおりであることは認めるが、その余の主張は争う。

四  同3及び4並びに三の主張は争う。

第四被告の主張

(原告の手続的違法の主張について)

一  請求の原因二の1の主張について

1 被告は昭和三三年五月三〇日付で原告の昭和三〇年度以降の青色申告の承認を昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法(昭和二二年法律第二八号)(以下「旧法人税法」という。)第二五条第八項の適用により取り消したものであるが、右各条項には、「政府は…左に掲げる事実があると認める場合においては、その事実があったと認められる時までさかのぼってその承認を取り消すことができる。」旨規定されていることから明らかなように、右取消しの効果は、原告の昭和三〇年度から生じているものであり、従って、原告は、昭和三〇年度ないし同三二年度については白色申告者にすぎなかったのであるから、被告が右各年度の再更正ないし更正を行なうに際し、その処分の通知書に旧法人税法第三二条の規定に基づく理由の附記をしなかったからといって、何ら違法となるものではない。

2 被告は前記の青色申告の承認取消処分においてその通知書に理由の附記をしなかったものであるが、それは、右取消処分当時の根拠法条が旧法人税法第二五条第八項であり、その取消通知は、同条第九項(昭和三四年法律第八〇号による改正前のもの)に規定されていたものであるが、右通知に理由の附記を要する旨定められていなかったものである。従って、取消しの通知書に理由の附記を欠いたとしても無効となる余地はないし、右青色申告の承認取消処分は、不服申立てもなく適法なものとして確定している。

二  同二の2の主張について

国税局長が審査請求に対して裁決することなく確定申告の日から起算して一〇年以上、審査請求の日から起算して五年以上経過した場合、審査請求の対象たる更正が取り消されるべき瑕疵をおびるとの実定法上の根拠は何ら存しない。審査請求の各個別事案の内容により審理の期間に長短ができるのは当然であって、不服申立てに対する決定又は裁決が遅延することにより不服申立人の救済が遅延することを防止するため、国税通則法は、不服申立についての決定又は裁決を経ることなく直接出訴できることを定めている(昭和四五年法律第八号による改正前の同法第八七条第一項第一号)のであって、原告主張のように解する必要はない。また、審査裁決に原告主張のような期間を要したことが仮に瑕疵であるとしても、それは裁決の瑕疵であって、原処分の瑕疵ではない。

(課税根拠について)

原告は各係争年度においてアスターハウスと称するキャバレー(昭和三二年度には、この外、マークイズ、アスタークラブ及び夜間飛行と称する飲食店を併せて)を経営している旧法人税法第七条の二に規定する同族会社であり、前記のとおり白色申告法人であるが、これに対する被告の課税根拠に関する主張は、次のとおりである。

一  昭和三〇年度

1 右年度の所得金額は二三、六〇四、一九八円であり、その内訳は次のとおりで、再更正額二〇、二七七、五五八円を上回っている。

〈省略〉

2 加算金額認定の根拠

(一) 売上計上もれ

原告の公表帳簿は、内容に信びょう性が認められず、これによっては売上金額の実額を把握することができず、また、被告の調査に原告の協力が得られなかったため旧法人税法(但し昭和三一年法律第六号による改正前のもの)第三一条の四第二項に基づき推計の方法により売上金額を認定したものである。

(1) 売上計上もれ額は、被告主張売上高と原告計上額との差額で次のとおりである。

〈省略〉

(2) 売上高の算出

原告の確定決算上の公表帳簿(総勘定元帳の売上勘定)に計上された純売上高(以下原告の公表帳簿に計上されたものを公表分という。)に席料計上もれ額を加算して得た売上高を公表分のビール使用本数で除して得た公表分ビール一本当たり売上高に実際のビール使用本数を乗じて実際の売上高を算出(以下この推計方法を「ビール基準」という。)したもので、これを具体的に示すと次のとおりである。

A 公表分売上高(席料修正のもの) 五九、五三九、七五〇円

B 公表分ビール使用本数 七三、九七八円

C 公表分ビール一本当たり売上高(A/B) 八〇四円

D 実際のビール使用本数 九九、一五四円

E 売上高(C×D) 七九、七一九、八一六円

(3) 右AないしEの認定根拠は次のとおりである。

ア Aは、原告の公表分純売上高(遊興飲食税を含まない売上高のことで以下単に「税抜き」ということもある。)五五六、五二三、五五〇円に右公表分に係る席料計上もれ額三、〇一六、二〇〇円を加算したもので、右席料計上もれは、昭和三〇年一月から三月まではなく、同年四月から一二月までは公表客数一人に対し一〇〇円として計算したもので、その詳細は別表二の1記載のとおりである。

イ Bは、原告の売上帳のビール本数月計欄記載の数字(店内分接待用使用本数を除いたもの)により認定した。

ウ Dは、前記の公表分ビール使用本数に仕入計上もれに係るビール本数二八、四八八本を加え、これから店外分接待用ビール使用本数三、三一二本を控除して実際に営業用として使用された本数を認定した。

(二) 雑収入計上もれ

原告が株式会社明治屋東京支店(以下「明治屋」という。)から受け入れたビールの仕入れに対する割戻金七九九、七四〇円である。

(三) 受取利息計上もれ

原告の代表取締役加藤幸三郎の指示により原告の役員植手富美子が管理する無記名の定期預金が存するところ、これらはいわゆる裏預金であって、原告が売上除外等の不正行為によって得た金員を預金したもので、右計上もれは、これら預金から生じた受取利息及び割増金の合計六六四、九八九円でその明細は別表三の1記載のとおりであり、その算出経緯は別表三の1記載のとおりである。

3 重加算税賦課決定

原告の確定申告は、前項記載のとおり、課税標準の基礎となるべき事実を隠ぺいしまたは仮装したところに基づいてなされたものであるから、前記旧法人税法第四三条の二を適用して、本件賦課決定をしたものである。

二  昭和三一年度

1 右年度の所得金額は四五、二〇三、一三六円であり、その内訳は次のとおりで、再更正額四三、三五六、八〇一円を上回っている。

〈省略〉

2 加算金額認定の根拠

(一) 売上計上もれ

前記のとおり、原告の公表帳簿は、その内容に信びょう性が認められず、これによっては売上金額の実額を把握することができず、また、被告の調査に原告の協力が得られなかったため、旧法人税法(但し昭和三二年法律第二八号による改正前のもの)第三一条の四第二項に基づき推計により売上金額を認定したものである。

(1) 売上計上もれ額は、被告主張売上高と原告計上額との差額で次のとおりである。

〈省略〉

主張売上高の内訳

〈省略〉

(2) 一月分ないし一一月分被告主張売上高の認定

右期間の売上高の推計は、ビール基準によったものであるが、その方法は、原告の公表分税抜売上高に席料計上もれ額を加算してA公表分の被告主張税抜売上高を算出し、このAをB公表分のビール使用本数で除してC公表分ビール一本当たり税抜売上高を得、これにD実際のビール使用本数を乗じて、E被告主張売上高を算出したもので、これを具体的に示すと別表四記載のとおりとなる。

(3) 右AないしEの認定根拠は次のとおりである。

ア Aの内訳は、次のとおりである。

〈省略〉

右表の公表分税抜売上高は、原告の売上勘定に計上されたものであり、公表分席料計上もれ額は、公表客数一人に対し昭和三一年一月から三月までは一一五円、四月から一一月までは二三〇円の計上もれとして計算したもので、詳細は別表二の2記載のとおりである。

イ Bは、売上帳のビール本数月計欄記載の数字により認定した。

ウ Dは、仕入先である明治屋及び株式会社ぬ利彦(以下「ぬ利彦」という。)からのビール仕入本数から接待交際用に使用されたビールの本数を控除して、実際に営業用に使用された本数を認定した。

(4) 一二月分売上高の認定

右期間については、公給領収証控を基礎として推計したものであるが、その方法は、原告が発行した公給領収証の控の一二月分の総計金額欄の合計額にその合計額のうちに含まれる飲食料金の割合(以下「飲食料率」という。)を乗じて税込売上高を算出し(以下この推計方法を「公給領収証基準」という。)これから遊興飲食税相当額を控除したもので、具体的には次のとおりである。

A 一二月分公給領収証控の総計金額欄の合計金額 二七、二九〇、〇一九円

B 飲食料率 六三パーセント

C 税込売上高(A×B) 一七、一九二、七一一円

D 遊興飲食税(飲食料金の一五パーセント)相当額の控除後の金額 一四、九五〇、一八三円

なお、前記飲食料率六三パーセントは昭和三二年三月ないし一二月における月別飲食料率のうち最低値である同年一二月の飲食料率を適用したものである。

(二) 雑収入計上もれ

明治屋から受け入れたビールの仕入れに対する割戻金七七一、五六〇円である。

(三) 受取利息計上もれ

原告の代表取締役加藤幸三郎の指示により原告役員植手富美子が管理する架空人名義の普通預金及び無記名の定期預金が存するところ、これらは原告の裏預金であって、原告が売上除外等の不正行為によって得た金員を預金したもので、右計上もれは、これら預金から生じた利息及び割増金で、その明細は別表三の2記載のとおりであり、算出の経緯は同表2記載のとおりである。

3 重加算税賦課決定

原告の確定申告は、前項記載のとおり、課税標準の基礎となるべき事実を隠ぺいまたは仮装したところに基づいてなされたものであるから、前記旧法人税法第四三条の二を適用して、本件賦課決定をしたものである。

三  昭和三二年度

1 右年度の所得金額は四七、四〇八、八三二円であり、その内訳は次のとおりで、更正額四七、三九四、二七八円を上回っている。

〈省略〉

2 加算金額認定の根拠

(一) 売上計上もれ

原告は、アスターハウス店のほか同年六月からマークイズ店及び夜間飛行店を、一〇月からアスタークラブ店をそれぞれ経営していたものであるが、前同様原告の公表帳簿は、その内容に信ぴょう性が認められず、これによっては売上金額の実績を把握することができず、また、被告の調査に原告の協力が得られなかったため、旧法人税法(但し、昭和三三年法律第四〇号による改正前のもの)第三一条の四第二項に基づき、推計により売上金額を認定したものである。

(1) 売上計上もれ額は、被告主張売上高と原告計上額との差額で次のとおりである。

〈省略〉

売上高の内訳

〈省略〉

なお、夜間飛行店の売上高については、右のとおり原告計上額をそのまま認容したものである。

(2) 売上高の認定

ア アスターハウス店

公給領収証基準によって認定した額と公表分売上高に席料計上もれ額を加算した額との合計額で、具体的には次のとおりである。なお、原告は公給領収証の発行に当たり、昭和三二年二月まではすべて合計金額欄の記載を省略し総計金額欄のみ記載していたため、公表分公給領収証と裏分公給領収証を区別することはできないが、三月分以降については、あらかじめA伝票(原告は、公表分として保存すべき伝票をA伝票と呼称していた。)に基づいて合計金額欄(但し、席料の一部及びこれに対する遊興飲食税相当額を脱ろうしたもの)のみの記載のある公給領収証を作成し、社交員から請求された場合には、これに立替金及びサービス料を加算した総計金額を記載して発行し、他方裏分については、合計金額欄を記載せずに総計金額欄のみ記載し、かつこれに「税込立替」ないし「立替分」なる表示をして、公表分と区別して別にB伝票(公表分から除外すべき売上伝票をB伝票と呼称していた。)を作成し、後に右B伝票を破棄していた。このように、A伝票とB伝票に対応して公給領収証も各別冊が使用され、その外形的特徴から公表分公給領収証と裏分公給領収証とが区別され得るところから、二月までと三月以降とで異なる推計方法を採ったものである。

(イ) 一月及び二月分売上高

右期間については、前記のとおり公給領収証控が公表分と公表外分(裏方)とに区分されていないので、公給領収証控の総計金額欄の各月毎の合計金額に後記(ロ)の三月から一二月までの飲食料率のうちの最低値(一二月分)を乗じて算出したもので、具体的に示すと次のとおりである。

〈省略〉

(ロ) 三月ないし一二月分売上高

(a) 右期間については、前記のとおり公給領収証が公表分と裏分とに区分されているので、裏分の公給領収証の総計金額欄の各月毎の合計額(但し、一部推定分を含む。)に飲食料率を乗じて裏分の税込売上高を算出し、これに公表分の税込売上高と公表分に係る席料計上もれ額とを加算して売上高を認定したもので、具体的に示すと次のとおりである。

裏分の税込売上高

〈省略〉

〈省略〉

但し、右( )内の数字は後記のとおり推定によるものである。

(b) 右推定分(三月、七月、八月及び一一月のかっこ書部分)は、アスターハウス店の昭和三二年度分の裏分の公給領収証控のうち合計九冊は保存されていないが、公給領収証発行番号メモによると、右九冊が発行されたことは明らか(別表五参照)であり、保存のある公給領収証控の表示内容によれば、同店では、昭和三二年三月から反覆継続して公給領収証を公表分と裏分とに区分し、その裏分に対応する売上高を記帳しなかった事実があるから、特段の事情がないかぎり保存のない公給領収証についても保存のある公給領収証と同程度の売上げが存在したものと推認すべきものであるから、これを推定により算出した。

そして推定加算した公給領収証一冊当たりの金額の算定方法は、各月において発行済の裏分公給領収証控のうち総計金額欄の金額が実額で算出できるものの合計金額を発行冊数で除して得た一冊当たり平均総計金額欄の金額をもとに安全値をとって、三月分は八〇〇、〇〇〇円、その他の月は一、〇〇〇、〇〇〇円としたものである。

なお、実額で算出できる公給領収証控の三月から一二月までの各月毎の金額は次のとおりである。

〈省略〉

(c) 前記の裏分の税込売上高算出に当たっての飲食料率は、月別に公表分の公給領収証控の総計金額欄の合計額をもってこれに対応する公表分税込調査料金(公表分の税込飲食料金に税込みの席料計上もれ額を加算したもの)を除して算出したもので、具体的には次のとおりである。なお、ここにいう月別の公給領収証控の総計金額欄の合計額というのは三月から一二月までの公表分公給領収証控のうちから記載の完備しているもののみを選択してその総計金額欄の金額を合計したものであり、公表分公給領収証控のうちでも、例えば総計金額欄の記載のないものは当然除外してあるから、右合計額は原告のすべての公表分公給領収証控の総計金額欄の合計額を示すものではない。

〈省略〉

〈省略〉

(d) 公表分席料計上もれ額は、次のとおりで、休日及び昭和三二年三月一日から同月八日までを除いた日の公表客数一人に対し二三〇円の計上もれとして算出したもので、その詳細は、別表二の3記載のとおりである。

〈省略〉

イ マークイズ店

公給領収証基準によって算出したもので、公給領収証控が公表分と裏分とに区分されていないので、アスターハウス店の一、二月分と同様に総額によって算出したもので、具体的には次のとおりである。

〈省略〉

なお、右飲食料率は、アスターハウス店の飲食料率を適用したものであるが、これはマークイズ店がアスターハウス店と同一所在地の同一建物内にあり、営業形態は自由チップ制なる同一システムを採用し、チップ額、飲食料金もほぼ同程度であるためである。

ウ アスタークラブ店

マークイズ店と同様の方法によったもので、具体的には次のとおりである。

〈省略〉

〈省略〉

なお、右飲食料率は、アスターハウス店の飲食料率を適用したものであるが、その理由は、マークイズ店における場合と同一である。

(3) 遊興飲食税相当額の控除

前項アないしウの各店の税込売上高から昭和三一年度と同様の方法(二の2の(一)の(4)のD)により、遊興飲食税相当額を控除したものである。

(二) 雑収入計上もれ

明治屋から受け入れたビールの仕入れに対する割戻金のうち原告の計上もれに係る一〇〇、九八〇円であり、次のとおりである。

〈省略〉

(三) 原告の代表取締役加藤幸三郎の指示により原告役員植手富美子が管理する架空人名義の普通預金及び無記名の定期預金が存するところ、これらは裏預金であって、原告が売上除外等の不正行為によって得た金員を預金したもので、右計上もれは、これら預金から生じた利息及び割増金で、その明細は別表三の3記載のとおりであり、その算出経緯は、同表3記載のとおりである。

(四) 仕入否認

明治屋及びぬ利彦からの原告計上の仕入額が実際の仕入額より過大に計上されていたので、右過大部分二七三、六三七円を否認したもので、その明細は、次のとおりである。

〈省略〉

(五) 経費中否認

(1) 原告が期末に一括計上した経費のうち、次の部分については、支出の事実が認められないので、否認したものである。

〈省略〉

(2) 否認の根拠

ア 社長渡し交際費三、〇〇〇、〇〇〇円は、支払の事実を証するものが一切なく、かつ、仮に支払の事実があったとしても、役員に対する渡し切り交際費は、利益処分と認めるのが相当であるから、損金算入を否認したものである。

イ 接待交際用ビールは、原告計上額のうち同業者に対する七〇ケース(一ケース二四本)、従業員慰安会用の六〇ケース及び開店披露用の一三〇ケースの合計七〇五、一二〇円の支出を認めるが、その余の店内接待客用と称する三三〇ケースの八九四、九六〇円については、支出の事実が認められなかったので、否認したものである。

ウ 社交員サービス料一、五〇〇、〇〇〇円は、原告が社交員に対し自社の招待客にかかる社交員の接待行為に関して社交員のサービス料相当額として支払ったとするものであるが、右事実は認められないので、否認したものである。

エ 社交員引抜費五、〇〇〇、〇〇〇円は、優秀社交員引抜きのための費用として社交員に年間七、〇〇〇、〇〇〇円を支払ったとするものであるが、右費用は、二、〇〇〇、〇〇〇円が相当であり、これを超える部分は否認したものである。

(六) 減価償却の償却超過額

昭和三二年六月夜間飛行店開店に際して、落合商店から椅子、卓子クロス等を合計三、四八四、八四〇円で購入したにも拘らず、原告は一、二三三、五〇〇円で購入したものとして公表帳簿に計上し、期中の償却額を二六五、五一〇円、期末現在の帳簿価額を九六七、九九〇円と経理していた。そこで被告は、前記の実際購入価額と原告計上の購入価額との差額二、二五一、三四〇円を簿外支出したものと認めて損金として認容するとともに、償却計算をして償却超過額を益金として加算したものである。これを具体的に示すと、次のとおりである。

ア 償却基礎価額 三、四八四、八四〇円

(期末現在の帳簿価額) (損金計上額) (償却基礎価額)

967,990+2,516,850=3,484,840

(損金計上額=期中償却費の原告計上額+簿外支出額)

イ  当期分の償却範囲額 七五〇、一一一円

(耐用年数5年の償却率)(月数)

〈省略〉

ウ  償却超過額 一、七六六、七三九円

(損金計上額) (償却範囲額)

2,516,850-750,111=1,766,739

(七) 申告書計算誤謬

右は、原告の昭和三二年度分確定申告書において、減価償却超過額の当期認容額として三四三、〇八一円を所得金額から減算しているが、右申告書添付の別表九(減価償却明細書)及び別表三(積立金額の計算)によれば前記金額は三四三、〇六一円が正しいものと認められるので、転記誤りとして二〇円減額したものである。

3 重加算税賦課決定

原告の確定申告は、前項記載のとおり、課税標準の基礎となるべき事実を隠ぺいまたは仮装したところに基づいてなされたものであるから、前記旧法人税法第四三条の一を適用して本件賦課決定をしたものである。

四 昭和三五年度

1 右年度の所得金額は一六、〇四一、〇三八円であり、その内訳は次のとおりで、更正額一五、八一九、五九四円(裁決で維持された金額)を上回っている。

〈省略〉

2 加算金額認定の根拠

(一) 受取利息計上もれ

原告の代表取締役加藤幸三郎の指示により原告役員植手富美子が管理する架空人名義、代表者名義及び無記名の定期預金が存するところ、これらは原告の裏預金であって、昭和三〇ないし同三二年度に原告が売上除外等の不正行為によって得た金員を預金したものを継続保有したもので、右計上もれは、これらの預金から生じた利息及び割増金でその明細は別表三の4記載のとおりであり、その算出経緯は同表4記載のとおりである。

(二) 貸付金利息計上もれ

原告は、昭和三二年から引続き原告代表者に対して二一、七二五、〇三一円を貸し付けていたものであるが、原告は、この貸付金に対して当年度において対価を徴していないので、右貸付金に対し年一〇パーセント(法人が役員に対して金銭を無償で貸し付けた場合に通常取得すべき利率)で算出した二、一七二、五〇三円を右貸付金に対する利息と認定したものである。

なお、右貸付金の発生経緯は、次のとおりである。すなわち、原告は、昭和三〇年度ないし同三二年度において売上除外等の不正行為によって得た金員を裏預金としていたものであるが、これらの別口預金から原告代表者個人のための支出として、昭和三一年度に九〇四、〇七六円、三二年度に一九、一三四、四六三円及び同三〇年度の当初更正の際に発生した簿外社長仮払金一、六八六、四九二円の合計二一、七二五、〇三一円が認められたので、これを代表者に対する貸付金と認定したものである。

3 過少申告加算税賦課決定

原告は、確定申告において前項記載の所得を申告しなかったものであるから、国税通則法第六五条を適用して、本件賦課決定をしたものである。

五 昭和三六年二月分

1 本件納税告知処分の根拠は、次のとおりである。

(一) 前項の2の(二)記載のとおり、原告は、原告代表者に昭和三二年から引き続き二一、七二五、〇三一円を無償で貸し付けているところ、原告は、昭和三五年度においても右貸付金の対価を収受していないので、右代表者に対し経済的利益を供与したものと認められる。そしてこの経済的利益の額は、右貸付金に対し年一〇パーセントの割合で計算した二、一七二、五〇三円と認められる。

(二) ところで右経済的利益は賞与に該当するので、所得税法(昭和二二年法律第二七号)第九条第一項第五号に規定する給与所得であり、従って、原告は、同法第三八条により、右賞与に係る所得税の額をその支給した時と認められる原告の昭和三五年分の決算確定時である同三六年二月二八日までに徴収し、これを同年三月一〇日までに納付しなければならないものであるから、被告は、国税通則法第三六条に基づき、本件納税告知をしたものである。

2 不納付加算税賦課決定

原告は、前項の所得税をその法定納期限までに納付しなかったので、国税通則法第六七条により、本件賦課決定をしたものである。

六 推計方法の合理性について

1 ビール基準

被告は、原告の昭和三〇年度及び同三一年度の一月から一一月までの期間の売上高の算出に当たり、既に述べたようにビール基準を採用しているものであるが、右方法は、次のように合理性を有する。

(一) 被告の採用したビール基準は、原告の年間(昭和三〇年度)又は月別(昭和三一年一月から一一月まで)飲食費売上高(税抜き、総勘定元帳の売上勘定計上の売上高)に脱ろう席料を加算して公表分売上高を求め、これを公表分の年間又は月別ビール使用本数(売上帳記載のもの)で除してビール一本当たり売上高を算出し、これにビールの年間又は各月毎の実際使用本数を乗じて年間又は月別売上高(税抜き)を求める推計方法である。

ところで原告経営のアスターハウス店においては、顧客に対する接待には最初のワンセットに必ずビールを使用しており、日本酒、洋酒、ジュース等はとくに顧客から要求があった場合にのみ使用し、しかもその数量の全体に占める割合も極く少量で、原告の仕入れの大部分はビールであるからビールの一本当たり売上高を基準とし、これに売上本数を乗じて全体の売上高を推計することは合理性を有するものである。このようなキャバレー業におけるビール基準は、製造業において製品一単位の販売価格に仕入主要原材料の総単位を乗じて売上高を推計する方法と同一の考え方にたつものである。

(二) 原告は、実際には顧客一人に対して三〇〇円(但し、昭和三一年三月ころまでは二〇〇円)の席料とこれに対する遊興飲食税(右金額の一五パーセント)の合計三四五円(席料二〇〇円の場合は二三〇円)を顧客からとっていたにも拘らず、公表帳簿では一〇〇円とこれに対する遊興飲食税の合計一一五円しか計上しておらず、その差額については売上げを脱ろうしていたのであるから、原告におけるビール一本当たりの売上高を算出するには、右の脱ろう席料を公表分売上高に加算する必要がある。

(三) 実際のビール使用本数は、原告の仕入本数をもって使用本数とみなし、これから売上げとならない店内接待用及び店外交際用(贈答用)に使用されたビールの数量を控除して算出した。すなわち、当時原告店においては、ビールの保管設備は狭あいであり、多量の貯蔵は不可能であったこと、原告は、ほとんど毎日ビールの仕入れを行ない、仕入数量は前日の使用量とにらみあわせて決めていたことから、原告のビールの在庫量はほとんど変動なく常時一定していたものと認められることからすると、毎月のビール使用本数を計算する場合、期首在庫本数に仕入本数を加えこれから期末在庫本数を控除して当期使用本数を算出する正規の方法にかえ、仕入本数をもって直ちに使用本数とみなすことは合理的なものである。

2 公給領収証基準

公給領収証基準とは、原告が発行した公給領収証控の総計金額欄の金額を月別に集計し、これに飲食料率を乗じて税込月別売上高を求め、これから遊興飲食税相当額を控除して税抜月別売上高を算出する方法である。ところで、公給領収証は、その発行を法律上強制されているものであるから、これは公給領収証の発行が確実に行なわれている限り極めて合理的な推計方法である。公給領収証の総計金額欄に記載されている金額中には、飲食料金、遊興飲食税等の原告の収入すべきものと社交員のチップ及びたばこ代等の立替金等の社交員の収入すべきものとが含まれているので、後者の金額を除くために飲食料率を乗じて実際の売上高を算出したものである。

3 昭和三一年度に両基準を併用したことについて

被告は、前記のとおり、原告の昭和三一年度の売上金額を算出するに当たり、同年一月から一一月までについてはビール基準を、一二月については公給領収証基準を各適用し、同一年度に二つの推計方法を併用しているものであるが、これには次のような合理的理由がある。

(一) 原告は、公表面から売上げの一部を脱ろうするための方法として、売上伝票の一部除外及び席料の計上脱ろうの二つの方法をとった。すなわち、売上伝票(親伝票)のなかから公表分として保存すべき分と除外すべき分とを区分し、前者をA伝票後者をB伝票と呼称していた。本件は、原告によるB伝票その他の会計記録の隠滅等により、売上高の実額を信頼し得る会計記録のみに基づいて把握することが不可能であるため、現存の会計記録その他の資料を活用して売上高を推計することを余儀なくされている事案である。従って、一方の資料による推計と他方の資料による推計を比較して、いずれが真実の売上高に対して最近似値を示すかを認定することも、会計記録及びそれ以外の諸事実を含む一切の具体的な事情を総合して判断しなければならない。

(二) ところで、公給領収証基準は、法律上発行を強制される公給領収証の性質上一般には売上高推計の方法としてビール基準より合理的であるといい得るが、これは、公給領収証の発行が確実に励行されているという事情の存在を前提としてはじめて妥当性をもつものである。しかし、公給領収証制度は、昭和三〇年一一月に施行をみたものであり、昭和三一年度はまだ施行後日が浅いため、その発行は完全には行なわれておらず、なお私製領収証も広く行なわれていたものと認められた。このことは、同年度における原告の公表売上高と公給領収証基準によって算出した売上高の推移からも明らかである。すなわち、右年度の上半期においては、公表金額が公給領収証基準による売上高よりも多いという奇異な現象を呈し、しかもその差を次第に縮めながら、下半期においては公給領収証基準による売上高が公表売上高を超えその差が逐月大きくなっていくことからも、容易に推認し得るところである。このように、昭和三一年度においては、公給領収証基準の適用を相当とする前提を欠いているから、ビール基準は、合理的なものとして是認されるべきである。しかし、同年一二月においては、既に公給領収証制度施行後一年を経過し、概ね完全に施行されるに至ったと認められること、原告の経営するアスターハウスの一二月の営業は、クリスマス時期であるためビール以外にシャンペンが多く使用され、売上内容が他の月と相違するところ、ビール基準によれば、売上高はクリスマス券による売上脱ろう分と公表金額の合計額にも満たない不合理なものとなる。従って、昭和三一年一二月分について公給領収証基準を用いることは、合理的というべきである。

第五被告の主張(課税根拠について)に対する原告の認否

一  冒頭記載の前段の事実のうち、原告が白色申告法人であるとの点を除きその余は認める。

二  一昭和三〇年度のうち

1  1の申告所得金額及び減算金額は認めるがその余は否認する。なお、申告所得金額については、その形式的数額のみを認める趣旨であり、右金額に見合う売上げがあった事実を認めるものではなく、右は、その他の事業年度についても同様である。

2  2の(一)のうち、(1)の原告計上額及び(3)のアの公表分純売上高は認めるが、その余は否認する。

3  2の(二)及び(三)並びに3は否認する。

三  二昭和三一年度のうち

1  1の申告所得金額及び減算金額は認めるがその余は否認する。

2  2の(一)の(1)の原告計上額、(3)のアの公表分税抜売上高及び(4)の一二月分公給領収証控の総計金額欄の合計金額は認めるが、その余は否認する。

3  2の(二)及び(三)並びに3は否認する。

四  三昭和三二年度のうち

1  1の申告所得金額、減算金額及び寄附金の損金不算入額戻入額は認めるがその余は否認する。

2  2の(一)のうち、原告が被告主張のような各店をその主張する時から経営していた事実、(1)の原告計上額及びその各店毎の内訳、(2)のアの(イ)の公給領収証控の総計金額欄合計額、同(ロ)の(a)の裏分公給領収証控総計金額欄の合計額(但し、推定分を除く。)、同(ロ)の(c)の公表分公給領収証総計金額欄合計額並びに同(2)のイ及びウの公給領収証総計金額欄合計額は認めるが、その余は否認する。

3  2の(二)、(三)及び(四)は否認する。

4  2の(五)のうち、(2)のイの同業者に対する七〇ケース、従業員慰安会用の六〇ケース、開店披露用の一三〇ケースの合計二六〇ケース、七〇五、一二〇円の支出及び同エの社交員引抜費二、〇〇〇、〇〇〇円の支出については認めるが、その余は否認する。いずれも原告が計上したとおり支出があったものである。

5  2の(六)のうち器具備品の期末現在の帳簿価額及び原告が計上した期中の償却額は認めるがその余は否認する。

6  2の(七)は認める。

7  3は否認する。

五  四昭和三五年度のうち

1  1の申告所得金額、減算金額及び寄附金の損金不算入額戻入額は認めるがその余は否認する。

2  2及び3は否認する。

六  昭和三六年二月分は否認する。

七  六推計方法の合理性について

1  1の(一)ないし(三)は争う。

2  3のうち(二)の公給領収証制度が昭和三〇年一一月に施行されたことは認めるが、その余は争う。

第六原告の反論

一  被告は、昭和三〇年度について、原処分時においては帳簿等のほかに普通預金証書及び定期預金証書等確実な資料があるとし、これらに基づいて原告の所得を算定していながら(東京国税局長も審査裁決において同様の理由により右年度の再更正を容認している。)、本訴に至ってビール基準による推計を行ない、再更正の適法性を主張しているが、このように、被告が原処分ないし不服審査段階と当該処分の取消訴訟の段階とで異なる課税根拠を主張することは、原告の訴訟上の防禦権を著しく阻害するばかりでなく、審判の対象を変更するものであって許されないものというべきである。さらに、原告は、本件につき昭和三六年三月二三日に再調査請求をしたが、これに対し昭和四五年二月一九日裁決があり、同年三月本訴を提起したものであるが、このような一連の税務抗争手続からみると、一〇年近く経過してビール基準を主張するのは、時機に遅れた主張として許されないものといわねばならない。

二  昭和三〇年度のビール基準の不合理性

1  被告主張の公表分売上高と公表分ビール使用本数との間には関連性がないから、これらを基礎に公表分ビール一本当たり売上高を算出しこれに実際ビール使用本数を乗じて売上高を推計する方法には合理性がない。

2  ビール使用本数の認定があいまいである。すなわち、

(一) 仕入本数から除外すべき店内外接待用ビール使用本数の算定が恣意的であり、また、盗難、破損、社長等の個人的飲用のビールが存在することは社会通念上当然であるのに、これらが控除されていない。右盗難及び破損のビールについてみるに、盗難及び破損は一日当たりそれぞれ少くなくとも五本は存し、毎月二五日営業するとしても、その本数は月間二五〇本、年間では三、〇〇〇本に及ぶ。このほか、個人的飲用と贈答用等があり、この業界ではビール一ダースのうち二本は右の用途に当てるため除外するのが常識とされているのに、被告はこれを無視し、わずかな除外本数しか認めていない。

(二) さらに被告は乙第二一号証から公表分仕入本数と称し合計三、二六六ケース(七八、三八四本)の仕入れが認められると主張するが、次のアないしウの合計五二二ケース(一二、五二八本)は、右仕入本数から控除されねばならない。

ア 変の記号の付してある昭和三〇年一二月二六日仕入分一七ケース及び同月三一日仕入分七一ケース

イ 昭和三〇年六月一八日仕入分のうち一〇ケース(同日分の仕入れ一五ケースとあるのは五ケースの誤りである。)

ウ 昭和三〇年中の戻入れビール四二四ケース(その詳細は別表六記載のとおりである。)

3  毎月のビール使用本数と毎月のビール一本当たりの売上高を基礎としないで年間通算の方法によっているのは粗雑極まるもので、実際の所得金額との誤差を過大にして推計の合理性を失わせる。すなわち、被告主張によっても、ビール一本当たりの売上高が月毎に著しい相違を示すことは、昭和三一年度の例をもってしても明らかであり(右年度の最低は一本当たり九六九円で、最高は一、二〇一円である。)実際のビール使用本数も月毎に著しい相違を示す(右三一年度の最低使用本数は六、〇一五本で最高は一〇、一四五本である。)ものであるから、ビール基準による推計は、月毎のビール本数と一本当たり売上高が適正に組み合わされてはじめて一応の合理性を有し得るものである。

三  昭和三一年度のビール基準の不合理性

1  右年度のビール基準についても、前項の二の1及び2の(一)と同様の理由により合理性がない。

2  昭和三一年二月一四日仕入れの一二ケースは取り消されているから、仕入本数から控除されるべきである。

四  昭和三一年度中に推計方法を変更する不合理性

被告は、右年度の売上高を推計するに当たり、一月から一一月まではビール基準を、一二月には公給領収証基準をそれぞれ用いているが、同一年度の売上げを推計するのに区々の推計方法を採用すること自体推計の合理性を欠くし、同一年度の途中で推計方式を変更することは、売上げにつき重複計算の誤りをおかすもので合理的でない。すなわち、被告主張によると、一一月分のビール使用本数は、同月の仕入本数から若干の接待交際用使用本数を差し引いた本数ということになるが、常識的には、仕入本数のうち必ず月末残本数が存するのである。そして、右残本数に対応する売上高は、一方においてビール基準による推計により一一月分売上高として算定されると同時に、他方において、公給領収証基準による推計によって一二月分売上高として二重に算定されることは明らかである。加えて公給領収証の月毎の区分に誤りがあることが明白であることなどから、重複計算のおそれは一層強くなるものである。

なお、公給領収証制度が施行されたのは昭和三〇年一一月からであるから、施行後一年を経過するのは昭和三一年一〇月からである。従って、被告主張のように、施行後一年経過後から公給領収証基準によるのが適当であるとするなら、右一〇月からこれによるべきであり、一二月分のみこれによる理由はない。

また、クリスマス期間中のシャンペンその他特殊の売上げもビール基準で把握することができるのである。すなわち、一二月のビール一本当たり売上高は一、六〇五円で、被告主張によるその他の月のビール一本当たり売上高九六九円ないし一、二〇一円を大きく上回っており、このことは、右一二月分のビール一本当たり売上高がクリスマス期間中の特殊売上げをも含んでいることを物語っているものである。従って、被告主張のようにクリスマス券による売上げがあるからビール基準は妥当しないということはできず、かえって、右一二月についてのみ公給領収証基準を採用することは、前記のように推計の一貫性を欠くものである。そして、一二月売上高をビール基準で算定すると別表七記載のようになり、同月分の税込売上高は一三、三三九、一五五円となるから、被告が公給領収証基準により算定した一二月分税込売上高一七、一九二、七一一円のうち右ビール基準による売上高を超える部分は、過大というべきである。

五  公給領収証基準の不合理性

1  本来、公給領収証基準とは、原告に存在する公給領収証控を月毎に区分したうえ、各月毎の公給領収証控総計金額欄の合計額を算出し、これを各月毎に算定した飲食料率を乗じて得た金額から月毎の原告計上額を控除して、その残額を月毎の売上脱ろう額とすべきものである。しかるに、被告は、原告の売上げを過大に認定するために、次のように公給領収証基準を区々に適用している。すなわち、被告は、アスターハウス店の一、二月分、アスタークラブ店及びマークイズ店についてはすべての公給領収証控の総計金額欄の合計額に飲食料を乗じ、これから原告計上額を控除した残額を売上脱ろう額としているのに対し、アスターハウス店の三月ないし一二月分については、公給領収証控を公表分と立替分ないし裏分とに区分(上記区分が恣意的であることは後記のとおりである。)し、右立替分ないし裏分と被告が称するものについてだけ公給領収証基準を適用し、公表分には適用しないという区々の方法を採っている。また夜間飛行店については、公給領収証控は確認し得ないのであるから、公給領収証基準によれば売上げを推計することができず、従って、売上高を零とすべきであるのに、この場合には右基準を適用しないで、原告計上額をもって売上高とする方法をとっている。

以上のように被告は、公給領収証基準を売上高を過大に認定するために区々に適用しているものであるから、被告のした右基準の適用には、一貫性がなく、合理性がない。

2  被告は、アスターハウス店の三月ないし一二月分の公給領収証控を恣意的に公表分と立替分ないし裏分とに区分している。すなわち、公表分公給領収証とは、原告の公表売上高に見合うものをいい、それ以外のものを立替分ないし裏分公給領収証とするのが正しい判別方法であるのに、被告は原告の計上額に見合う公表分公給領収証を具体的に特定することなく、従って、立替分ないし裏分公給領収証の特定もできないはずであるのに、公給領収証の外形的形態に基づき恣意的に右立替分を決定し、これに係る売上げを全部売上脱ろう分とする誤りをおかしている。これを具体的にいうと、アスターハウス店の昭和三二年三月分以降について被告が公表分公給領収証として特定しているのは、被告主張の飲食料率算定のために使用されたものだけであるが、三月分以降各月の右公表分公給領収証控総計金額欄の合計額に対応する税込売上高(席料修正のもので、前記第四の(課税根拠について)三の2の(一)の(2)のアの(ロ)の(c)欄記載の一覧表記載のもの、ただし、同年五月分の公表分公給領収証控総計金額欄の合計金額は、九、一八三、〇〇〇円が正しいのでこれに対応する税込売上高は五、〇九二、〇〇〇円となる。)と右各月の原告計上額(期末において現金売上分として一括計上された二一、一二九、〇一四円を除く。)とを比較すると別表八記載のとおりであり、前者と後者とが符合しないことは明らかであって、このように原告計上額に見合う公表分公給領収証が特定されていない以上、立替分公給領収証控に係る売上高を全部脱ろう売上高と判定することはできないといわねばならない。そして、公表分公給領収証控総計金額欄の合計額に対応する税込売上高は、原告計上額よりも右各月分の合計金額において一一、四四〇、七八一円少なく、結局、被告認定に係るアスターハウス店三月分以降の税込売上高のうち少くなくとも右一一、四四〇、七八一円と前記一括計上分二一、一二九、〇一四円に相当する金額合計三二、五六九、七九五円は、公給領収証控に基づいていないから、根拠を欠くものといわねばならない。

3  被告は、アスターハウス店の三月分以降において現物の存在しない公給領収証によって売上高を認定しているが、これは違法である。すなわち、被告主張のアスターハウス店立替分(裏分)公給領収証控総計金額欄の合計額のうち三月分四、〇〇〇、〇〇〇円、七月分一、〇〇〇、〇〇〇円、八月分二、〇〇〇、〇〇〇円、一一月分一、〇〇〇、〇〇〇円合計八、〇〇〇、〇〇〇円については現物の公給領収証が存在しないにもかかわらず、被告は、右金額を立替分に係る売上高として推計しているものであるが、現物のない公給領収証は、それが発行されたという根拠がないから、これを資料として売上高を推計し得ないことは明らかであるし、被告は、立替分公給領収証はその外形により識別し得ると主張しているのであるから、現物の存在しないものについてはその外形を確認する余地はなく、従って、それが立替分かどうかを外形によって識別することはできないといわねばならない。

4  被告は、アスターハウス店の飲食料率をアスタークラブ店及びマークイズ店にも適用しているが、右適用に合理性はない。すなわち、アスターハウス店はキャバレーであるがアスタークラブ店及びマークイズ店はクラブであり、営業形態が異なり、チップ額、飲食料金も少額であるうえ、経理員も異なるのである。従って、アスターハウス店の飲食料率をアスタークラブ店及びマークイズ店に適用することは、合理的ではない。

5  被告は、夜間飛行店の売上げにつき原告計上額を認容したものと主張しているが、右原告計上額は、納税のための形式的数額にすぎず、それに見合う実際の売上高が存在するかどうかは別の問題といわねばならない。また、夜間飛行店の公給領収証控が被告主張のアスターハウス店の立替分公給領収証控等に混入している疑いもあるから、原告計上額をそのまま認めることはできない。

六  被告算出の所得金額の不合理性

被告のした原告の昭和三〇年度ないし同三二年度の算出所得金額によれば、原告は、各年度とも約四割を上回る利益率(売上高に対する利益の割合)をあげていることになるが、右利益率は、東京都内におけるキャバレー営業の一般的標準利益率約一割に比較して著しく高率といわねばならない。そして、被告は、原告が同業者に比較して著しく高率の利益をあげたとする特別の事情を何ら明らかにしていない点からすると、右の著しい高利益率は被告の推計方法の不合理性を明らかにしているものというべきである。また、被告は、同業者の平均的利益率を調査し、その推計の妥当性を検討すべきであるのに、何らかかる措置を採っていない点においても、違法といわねばならない。

七  受取利息計上もれ

被告主張の各預金は、いずれも原告のものではなく、従って、右各預金に対する利息及び割増金は、原告の所得ではない。

八  昭和三五年度の貸付金利息計上もれ

原告は、原告代表者に対し被告主張のような貸付をしたことはないので同人に対する利息債権はない。仮にそうでないとしても、原告は、代表者に対し無償で貸し付けたものであるから、同人に対する利息債権はない。

九  昭和三六年二月分に係る源泉所得税の納税告知について

1  原告は、被告主張の金員を原告代表者に貸し付けたことはなく、従って、原告に被告主張のような源泉所得税の納税義務はないから、被告のした納税告知は違法である。

2  また、被告は、一方において原告の原告代表者に対する貸付金利息二、一七二、五〇三円を貸付金利息計上もれとして原告の昭和三五年度分所得として認定しながら、他方において原告代表者に同額の経済的利益を供与したものとし、原告代表者のかかる所得について原告に源泉徴収義務を課するのは、同一所得に対する二重課税となり違法である。

第七原告の反論に対する認否及び再反論

一  原告の反論に対する認否

1  第六の一のうち、被告が昭和三〇年度の所得の認定に当たり、原処分時には普通預金証書、定期預金証書等に基づいて所得を算出し、右方法は裁決においても維持されたこと、被告が本訴においてビール基準による推計の方法を採用していることは認めるが、その余の主張は争う。

2  第六の二の1ないし3は争う。

3  第六の三の1、2は争う。

4  第六の四のうち、公給領収証制度の施行時期、昭和三一年一二月分のビール基準による原告主張の計算関係は認めるが、その余の主張は争う。

5  第六の五のうち、被告が原告主張のような推計方法を原告の各店に適用したこと、夜間飛行店については原告計上額を認容したことは認めるが、その余の主張は争う。

6  第六の五の2ないし5の主張は争う。

7  第六の六のうち、東京都内におけるキャバレー営業の一般的標準的利益率が約一割であるとの点は不知、その余の主張は争う。

8  第六の八及び九の主張は争う。

二  被告の再反論

1  原告の反論一について

課税処分取消訴訟の訴訟物は、当該課税処分の違法性一般であるが、その具体的違法事由として課税処分の内容の違法すなわち課税処分において認定された課税標準または税額の多寡が争われる場合には、当該課税処分の違法性の有無は右処分において認定された課税標準または税額が実際の客観的な課税標準または税額を超えているかどうかによって決せられるものと解すべきであるから、課税標準または税額の計算の根拠についての主張立証は、単なる攻撃防禦方法にすぎないというべきである。そして、課税庁がその課税処分を維持するため、更正処分または審査裁決等では考慮されなかった事実(推計方法を含む。)を訴訟の過程において新たに主張し、また、訴え提起後に作成収集された資料によって当該課税処分に係る所得金額等が実際の客観的な課税標準等と一致し、あるいはその範囲内にあることを立証することも、それが時機に遅れたものでない限り許されるのである。従って、被告のビール基準等による推計課税の主張は、何ら違法ではない。

2  原告の反論二の3について

被告は、原告の昭和三〇年度の実際売上高をビール基準によって算定するに当たり、いわゆる年間通算方式を採用して公表分ビール一本当たり売上高を算出したのであるが、これを原告が主張するようないわゆる月毎計算方式で算出すると、別表九記載のとおりで、これによれば実際売上高は八〇、九一八、七九七円となり右年間通算方式による七九、七一九、八一六円を上回るものである。

3  原告の反論九の2について

法人が役員に対して金銭を無償または通常の利率よりも低い利率で貸し付けた場合には、債務の免除等による経済的利益として法人が実質的にその役員に対して給与(賞与)を支給したのと同様の経済的効果をもたらすものである(法人税法施行規則(昭和二二年勅令第一一一号)第一〇条の三第三項かっこ書)ところから、法人においても前記の被告の主張(課税根拠について)四の2の(二)に述べた課税がなされ、かつ、原告代表者に対しても所得税法(昭和二二年法律第二二号)第九条第一項第五号に規定する給与所得として課税がなされるべきものである。このように、実体法上法人税と所得税の別個の課税所得を構成するものであることからすると、原告の主張は失当である。

第八証拠

一  原告

1  甲第一号証の一ないし五、第二号証、第三号証の一ないし五、第四号証を各提出

2  証人野口武の証言(第一回)を援用

3  乙第一号証の一、二、第二号証ないし第五号証、第六号証の一ないし三、第七号証、第三〇号証、第五六号証、第六〇号証ないし第六七号証、第六八号証ないし第七七号証の各一、二の各一、第七八号証の一、二、第七九号証、第八〇号証の一ないし一二、第八一号証の一、二、第八二号証ないし第八六号証、第八七号証の一、二、第八八号証、第九〇号証ないし第九四号証、第九七号証ないし第一〇〇 証の 一ないし三、第一〇一号証の一ないし四、第一〇五号証ないし第一一九号証、第一二九号証、第一三二号証の各成立(第一〇六号証ないし第一〇八号証については原本の存在も含めて)は認める。乙第八号証、第九号証の一ないし四、第一七号証、第一八号証の一、二、第一九号証ないし第二四号証、第三二号証、第五三号証、第五七号証、第一二三号証ないし第一二八号証、第一三〇号証の一ないし九、第一三一号証の一ないし六、第一三三号証の一ないし六、の各成立(第三二号証及び第五三号証については原本の存在も含めて)は否認する。その余の乙号各証の成立(乙第一〇、一一号証、第三五号証の一ないし一五六の各一、二、第三六号証の一ないし三の各一ないし一〇一、第三七号証の一ないし三の各一ないし一〇二、第三八号証の一、第三八号証の二ないし四の各一、二、第三九号証の一ないし一〇、第四八号証、第四九、五〇号証の各一、二、第五二号証の一ないし一〇、及び第五八、五九号証については原本の存在についても)はいずれも不知。

二  被告

1  乙第一号証の一、二、第二号証ないし第五号証、第六号証の一ないし三、第七、八号証、第九号証の一ないし四、第一〇号証ないし第一五号証、第一六号証の一、二、第一七号証、第一八号証の一、二、第一九号証ないし第三四号証、第三五号証の一ないし一五六の各一、二、第三六号証の一ないし三の各一ないし一〇一、第三七号証の一ないし三の各一ないし一〇二、第三八号証の一、第三八号証の二ないし四の各一、二、第三九号証の一ないし一〇、第四〇号証ないし第四二号証、第四三号証の一ないし四、第四四号証ないし第四八号証、第四九、五〇号証の各一、二、第五一号証、第五二号証の一ないし一〇、第五三号証ないし第六七号証、第六八号証ないし第七七号証の各一、二の各一、二、第七八号証の一、二、第七九号証、第八〇号証の一ないし一二、第八一号証の一、二、第八二号証ないし第八六号証、第八七号証の一、二、第八八号証ないし第九六号証、第九七号証ないし第一〇〇号証の各一ないし三、第一〇一号証の一ないし四、第一〇二号証ないし第一二九号証、第一三〇号証の一ないし九、第一三一号証の一ないし六、第一三二号証、第一三三号証の一ないし六を各提出

2  証人野口武(第一、二回)、同石森宏宜、同森道生、同桑谷賢次(第一、二回)、同竹内又義、同佐々木善春、同伊藤一夫、同堀英雄の各証言を援用

3  甲号各証の成立はいずれも認める。

4  原告は乙第一九号証ないし第二三号証の各成立を当初いずれも認めながら、後に右陳述を撤回し右各成立を否認している。しかし書証の成立を認める旨の陳述は自白に当たるものと解すべきところ、自白の撤回は右自白が真実に反し、かつ錯誤によってなされた場合にのみ許されるものというべきであるが、原告に右のような事情は存しないのであるから右自白の撤回には異議がある。

理由

一  請求の原因一の事実は当事者間に争いがない。

二  原告の手続的違法の主張(請求の原因二の1及び2並びに原告の反論一)について

1  原告は、昭和三〇年度ないし三二年度について原告のした申告は青色申告書による申告であるのに、被告のした右三〇、三一年度の再更正及び同三二年度の更正の各通知書には理由の附記がないから、右課税処分はいずれも違法である旨主張するので検討するに、右各通知書に理由の附記がないこと及び被告が昭和三三年五月三〇日付で原告の昭和三〇年度以降の事業年度について青色申告の承認を取り消した事実は当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば右の青色申告承認取消処分に対しては不服の申立てもされず、既に確定しているものと認められるから、原告のした昭和三〇年度以後の事業年度についての確定申告は、青色申告書以外の申告書による申告とみなされ(旧法人税法第二五条第八項、但し、昭和三四年法律第八〇号による改正前のもの)、従って、原告の右主張は前提を欠くものであるから採用できない。

もっとも、原告は、被告のした右青色申告承認取消処分には遡及効がないから前記各申告は青色申告書によるものであると主張するが、前記条項によれば、政府は、同項の第一号ないし第五号に定める青色申告承認の取消事由があると認める場合には、右取消事由があったと認められる時までさかのぼって青色申告の承認を取り消すことができる旨規定しているところ、被告は、前記のとおり、原告の青色申告の承認を昭和三〇年度にさかのぼって有効に取り消したものであるからこの点に関する原告の主張は採用できない。

また、原告は、被告のした青色申告承認の取消通知書には取消しの具体的理由の附記を要するところ、被告は、何らの理由も附記していないから右取消しには重大明白な瑕疵があり無効であると主張するところ、右の通知書に理由が附記されていないことは、当事者間に争いないところであるが、前記の旧法人税法第二五条第九項によれば、青色申告承認の取消しをしたときには当該法人に通知するものと規定されているが、その通知書に理由の附記を要するものとされていなかったことは明らかであるから、原告の主張は前提において誤っており失当である。

さらに原告は、原告のした前記各年度の申告が青色申告書によるものでないとしても、理由附記を要する根拠が徴税官吏の恣意の抑制にある以上、その更正通知書には理由の附記が要求されているものと解すべきであると主張するが、前記旧法人税法第三二条は、更正が青色申告書を提出した事業年度についてなされた場合には、その通知書に理由の附記をしなければならない旨規定しているが、右以外の場合についても理由の附記を要する旨の法律上の根拠はないから、右主張は採用できない。

2  原告は、更正につき審査請求がなされた場合において、これに対する裁決がなされないまま確定申告の日から起算して一〇年あるいは審査請求の日から起算して五年を経過した場合には、租税法律関係の早期安定の要請から、右更正は審査請求の対象とされた部分について取り消されるべき瑕疵を帯びると主張するが、このように解すべき法律上の根拠は何ら存しないし、裁決の遅延による救済の遅延に対する措置として行政事件訴訟法第八条第二項第一号による司法的救済の途も用意されているのであるから、原告主張のように解さなければならない実質的理由もない。よって、原告のこの点に関する主張は採用できない。

3  原告は、昭和三〇年度の再更正につき被告が本件取消訴訟において、原処分ないし不服審査段階におけるのとは異なる課税根拠を主張することは、原告の訴訟上の防禦権を著しく阻害するばかりか、審判の対象を変更するものであって許されないと主張するので検討するに、被告が昭和三〇年度の所得を認定するに当たり、原処分時においては普通預金及び定期預金の存在等に基づいて所得の認定を行ない、この方法が審査請求の段階でも維持された事実は当事者間に争いがなく、被告が本訴において右年度の売上高をビール基準による推計の方法により主張していることは前判示のとおりである。

ところで、一般に課税処分取消訴訟における審判の対象は、当該処分の違法性一般であると解されるところ、更正に理由の附記が要求されている青色申告の場合はさておき、本件のようないわゆる白色申告書により確定申告をしたと解される者の所得の更正において、課税標準または税額の多寡を争う実体的違法が主張された場合には、当該課税処分の違法性の有無は、右処分において認定された課税標準または税額が客観的な課税標準または税額を超えているか否かによって決せられるものと解されるから、課税標準または税額の計算の根拠となる事実についての主張立証は、単なる攻撃防禦方法にすぎず、従って、右のような課税根拠に関する主張は、時機に遅れない限り、口頭弁論終結時まで随時提出できると解すべきである。

そうすると、被告が本訴において昭和三〇年度の売上高を算出するに当たりビール基準による推計の方法を主張したからといって、審判の対象を変更したものでないことは右に述べたとおりであるし、本件訴訟の経緯からすると、右主張が原告の訴訟上の防禦権を阻害したものと認めることもできない。

また、被告がビール基準による推計の方法を本件訴訟の早期の段階から主張していることは、手続の経過から明らかであるから、右主張を時機に遅れたものということはできない。原告は、この点につき、本件については昭和三六年三月に再調査請求をし、これに対する裁決が昭和四五年二月にあり、本訴の提起が同年三月であるところ、このような一連の税務抗争手続からすると、右再調査請求から一〇年近くも経過してからビール基準という新たな課税根拠を主張することは、時機に遅れたものとして許されないと主張するが、民事訴訟法第一三九条第一項にいう「時機ニ後レ」た主張とは訴訟手続内での訴訟の具体的進行状態に関して生ずる問題であることは、右規定自体からも明らかというべきであるから、再調査請求段階から訴訟手続段階までを一体として把握することを前提とする原告の主張は、右前提において誤っており、理由がないというべきである。

三  原告の実体的違法の主張(請求の原因二の3)について

1  昭和三〇年度ないし三二年度についての推計の必要性について

成立に争いのない乙第九一ないし第九三号証、第一〇九号証ないし第一一九号証、証人堀英雄の証言により成立が認められる乙第二五号証、同野口武の証言(第二回)により成立が認められる乙第二六号証、同桑谷賢次の証言(第一回)により成立が認められる乙第二八号証(後記措信しない部分を除く。)、右野口の証言(第一回)により成立が認められる乙第二九号証、第四六号証、及び第一〇二、一〇三号証、右桑名の証言(第二回)により成立が認められる乙第一二〇号証、前記野口の証言(第二回)により成立が認められる乙第一二一、一二二号証を総合すれば、次の事実が認められ、前掲乙第二八号証の記載中これに反する部分は、右各証拠に照らして採用し難く、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

原告代表者加藤幸三郎及びアスターハウス店の経理責任者植手富美子は、昭和二九年ころから売上除外を図ることを企図し、これを経営の実際上の指揮監督に当たった右植手において概ね次のように行なった。まず右二九年ころから昭和三二年一一月まで明治屋からのビール仕入れの一部を裏取引として簿外仕入れを行ない、右簿外仕入れに係る売上げの計上を行なわず、これに見合う売上伝票等を破棄していた。また、植手は、顧客から飲食代金の一部として受領していた席料を過少に計上し、その差額を脱ろうするなどして売上げを除外し、これらの方法によって得た金員を無記名ないし架空人名義の定期預金等として東海銀行銀座支店等に預金していたものである。

ところが、昭和三二年一一月ころ被告の税務調査を受けた結果、前記の明治屋からのビールの簿外仕入れが発覚したが、なお簿外預金の存在等については否認していたところ、さらに翌三三年六月ころ東京国税局の査察調査を受けるや、右簿外預金については、昭和三四年二月ころから東海銀行銀座支店から同行の他支店等に預け替えるなどして隠ぺいし、また、税務職員の調査に対しても、前記の原告代表者及び植手においてはことさらに真実を否認し、さらには他の原告の経理事務担当者に対して真相をあかさないよう口止めを強要するなどの隠ぺい工作を行なっていたものである。

右事実によれば、昭和三〇年度ないし三二年度について、原告の帳簿書類は完備しておらず、かつ、信頼性に乏しく、また、原告代表者及び経理責任者らの税務調査に対する非協力的態度からすると、帳簿書類のみに基づく実額による課税は極めて困難というべきであって、推計の方法によるほかはないものというべきである。

従って、被告が右各年度の所得金額の算出に当たり、推計の方法を採用したことに何らの違法はない。

2  昭和三〇年度

(一)  被告の主張(課税根拠について)一の1のⅠ申告所得金額及びの減算金額並びに同2の(一)の(1)の原告計上額は、当事者間に争いがない。なお、原告は、右申告所得金額の認否につき、単に右申告所得金額の形式的数額を認めたに過ぎず、右申告額に見合う所得が存した事実まで認めるものではない旨主張するが、真実の所得金額が申告所得金額を下回るというためには、これを首肯させるに足りる特段の事情がなければならないところ、これを認めるに足りる証拠はないから、少なくとも申告所得金額に見合う所得は存したものと推認するのが相当というべきである。

(二)  売上高について

(1) 被告は右期間の売上高をビール基準による推計の方法により算出しているので、まず右方法の合理性について検討する。

被告のいうビール基準とは、昭和三〇年度分については、原告の公表分の年間遊興飲食費(税抜き)売上高(総勘定元帳記載の売上高)に脱ろう席料を加えて公表分売上高を求め、これを公表分の年間ビール使用本数(売上帳記載のもの)で除してビール一本当たりの売上高を算出し、これに年間のビール実際使用本数を乗じて年間税抜売上高を求めるというものであることは、その主張自体から明らかである。

ところで、前掲乙第二八、二九号証、第一〇二号証、第一〇九号証、第一一一号証ないし第一二二号証、証人野口武の証言(第一回)により成立が認められる乙第一二号証ないし第一五号証及び第一〇四号証、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第五五号証並びに証人野口武(第一、二回)及び同石森宏宜の各証言を総合すれば次の事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

アスターハウス店では、顧客に対し、最初のワンセットは飲物に必ずビールを提供していたもので、日本酒、洋酒及びジュース等は顧客からの要求に応じて提供するに過ぎず、飲物のほとんどをビールが占めていたものである。ところで、アスターハウス店の記帳経理の方法及び席料、サービス料のシステム等の状況についてみるに、右は概ね次のようなものであった。すなわち、顧客の来店があると、まず売上伝票(これを親伝票と呼んでいた。)を起こすとともに、顧客からの飲食物の注文に応じ品目及び数量等を記入する通し伝票を起こして飲食物の種類数量を明らかにし、清算時には右通し伝票に基づいて算出した飲食物の合計金額を売上伝票に記載するとともに、この外、席料として昭和三〇年四月以降一二月まで(同年一月から三月までは顧客人員が不明であるため席料の算出ができない。)は顧客一人につき二〇〇円を徴収(但し、休日は顧客一人につき一〇〇円)しており、以上の合計額に遊興飲食税率の一五パーセントを乗じて得た金額を加えた金額を原告が収納すべき売上金額としていた。そして右売上金額のほかに顧客が支払うべきサービス料については、自由チップ制と称して顧客と社交員との間で右金額を決定し、このサービス料が社交員の収入となるものとされ、顧客は、前記の売上金額(社交員は売上金額を記載した会計伝票をレジスター担当者から手交された。)に右サービス料(このほか社交員の顧客に対するたばこ代等の立替金を含むこともあった。)を加算した金額を社交員に支払い、社交員は、この中から売上金額に相当する金額を原告のレジ係に支払うものとされ、売上金額の徴収は社交員の責任とされた。

ところが、原告の経理責任者植手富美子は経理事務員菅野智恵子等に指示して売上伝票を公表分(A伝票と呼んでいた。)と裏分(B伝票と呼んでいた。)とに区分し、A伝票に基づく売上げだけを売上帳簿の原告の公表帳簿に計上することとし、B伝票の売上げを除外し、これを破棄していた。そして、前記の一人につき二〇〇円の席料についても、これから一〇〇円を除外し、一人につき一〇〇円を席料として徴収しているものとし、前記のA伝票に基づく売上高に加算してこれを総勘定元帳の売上勘定に計上していた。なお、原告のした売上除外は、専ら右の方法によるもので、売上伝票自体の記載内容を変更するものではなかった。

以上の事実によれば、アスターハウス店におけるビール使用本数は顧客に対する売上高と、また、A伝票は原告の公表帳簿である売上帳及び総勘定元帳の売上勘定とそれぞれ対応関係にあるものと認められるから、前記の被告の採用したビール基準による売上高の推計方法は、その算出の基礎となる数字に誤りがなければ、合理性を有するものというべきである。従って、原告が公表分売上高と公表分ビール使用本数との間には関連性がないから右推計方法は合理性がないと主張するが、右主張は、以上の説示に照らせば、理由のないことは明らかというべきである。

(2) 推計の基礎となる数字について

ア 公表分売上高五九、五三九、七五〇円のうち、五六、五二三、五五〇円が原告の公表帳簿(総勘定元帳の売上勘定)に計上された税抜売上高である事実は、当事者間に争いがなく、被告は、その余の三、〇一六、二〇〇円を右売上高に対応する脱ろう席料分であると主張するところ、証人石森宏宜の証言により原本の存在及び成立が認められる乙第一〇、一一号証、前掲乙第一二号証並びに証人野口武(第一回)及び同石森宏宜の各証言によれば、昭和三〇年四月以降一二月までの休日分及平日分の顧客人員として売上帳に記載された人数は、別表一〇記載のとおりであり、同表によれば、平日分の顧客人員は合計二九、九七七人であることが認められ、右認定を左右する証拠はない。そして、前記売上勘定の休日以外の脱ろう席料額が一人当たり一〇〇円であることは、前項に説示した通りであるから、合計席料脱ろう額は二、九九七、七〇〇円となり、これを前記の売上勘定計上の税抜売上高に加算すると、公表分売上高は、五九、五二一、二五〇円となる。

イ 公表分ビール使用本数

既に説示したように、前記の公表分売上高は、A伝票に基づき作成された売上勘定に計上された売上高に脱ろう席料を加算したものであるから、これに対応する公表分ビール使用本数は、右A伝票に基づき計上されている売上帳(前掲乙第一〇号証)により算出されるところ、右乙第一〇号証、前掲乙第一二号証、第一〇三号証、第一〇九号証及び第一一三号証によれば、原告は、昭和三二年一一月以前においては、接待客があった場合には、その都度接待伝票に飲食物の品目及び数量を記載し、売上帳の各品目欄の上部に右数量を転記して顧客用に使用された分と区別して記載していた事実が認められる(なお、前掲乙第一二一号証には接待伝票の一部を破棄していた旨の記載があるが、右各証拠に照らして採用し難い。)から、売上帳のビール数量記載欄の上部に記載された店内における接待用のビール使用本数を除いたものが公表分売上高に対応する公表分ビール使用本数というべきところ、右乙第一〇号証(昭和三〇年度の売上帳)によれば右の本数は七四、八四二本と認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

ウ 実際使用ビール本数

前掲乙第二五、第二六号証、証人石森宏宜の証言により成立が認められる乙第一九号証ないし第二一号証、証人伊藤一夫の証言により成立が認められる乙第二三号証、第二七号証及び第一二八号証(なお、右乙第一九号証ないし第二一号証及び第二三号証の各成立につき、原告が当初右各成立を認める旨の陳述をしていたがその後これを撤回し、否認する旨陳述したところ、被告は、右陳述の撤回は自白の撤回に当たるから真実に反し、かつ錯誤に基づくことの要件が立証されない限りその撤回は許されず、右撤回には異議がある旨述べているところであるが、書証の成立の真正についての自白は、裁判所を拘束するものではないと解するのが相当であるから、被告の同意がなくてもその徹回が許されるものと解すべきである(最高裁昭和五二年四月一五日第二小法廷判決・民集三一巻三号三七一頁参照)。)並びに前記証人石森の証言によれば、原告の昭和三〇年度分のビール仕入帳に計上されていないいわゆる簿外仕入分の数量は、明治屋からの合計一、一二八ケース(一ケースは二四本入り)とぬ利彦からの五九ケースの合計一、一八七ケース(二八、四八八本)と認められ、右認定に反する乙第一二二号証の記載は、前掲各証拠に照らして採用し難く、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

そこで、右簿外仕入分のうち実際に営業用として使用されたビールの数量について検討するに、まず、期首及び期末在庫量についてみると、前掲乙第二八、二九号証、第一一七号証及び第一二二号証並びに証人野口武の証言(第一回)によれば、原告のアスターハウス店には格別のビール保管設備はなく、ビールの在庫量は多くても一〇ケース程度にすぎず、日々の使用量に見合う程度の仕入れをほぼ行なっていた事実が認められ、右事実によれば、期末在庫量を同程度とみて期中における仕入量をもって当期の使用量とする算定方法に合理性があるものというべきである。

次に、右使用量のうち営業用以外に使用された数量について検討するに、店外での贈答用等に使用されたビールについては、前掲乙五五号証、第一一七号証及び証人野口武の証言(第一回)により成立が認められる乙第二四号証、同証言により成立が認められる乙第三一号証並びに証人石森宏宜の証言によれば、原告は昭和三一年度において簿外で贈答用として交番、警察署、消防署、町内会及び同業者等に対し中元ないし歳暮等として合計一三ケースのビールを使用している事実が認められるところ、これらの使用は、その贈答先、贈答の時期及びその性格等からみると昭和三〇年度にも同程度存したものと推認するのが相当というべきである。

なお、右乙第二四号証中には、顧客接待用ビールとして簿外で年間三〇ケースのビールが使用されている旨の記載が存するが、前項のイに認定のように、接待客に対しては接待伝票が発行され、その内容が操作されることなく売上帳等に転記されていたものであるから、この事実に照らせば、右記載は採用し難いものといわねばならない。

そうすると、原告が営業用として実際に使用したビールの本数は、前記の公表分ビール使用本数七四、八四二本に簿外仕入分二八、四八八本から店外贈答用等に使用された三、三一二本(一三ケース)を控除した残本数を加算した合計一〇〇、〇一八本となる。

なお、原告は、その反論二の2において、被告のしたビール使用本数の認定には、(あ)仕入本数から除外すべき店内外接待用ビール使用本数の算定が恣意的であり、(い)盗難、破損は各一日当たり五本で年間三、〇〇〇本に及ぶほか、個人的飲用等としてビール一ダースにつき二本を除外するのは業界の常識であるのに、これらの数量を認めていない点において誤っている旨主張する。しかし、右(あ)の主張の理由のないことは、これまでの説示から明らかであるし、(い)については盗難、破損が各一日当たり五本存することを窺わせる何らの証拠はないし、これらは経験上あり得ないことではないが、これらによる数量が帳簿上明らかにされておらず、また、盗難等に対する何らの対策もたてられた形跡が窺われない本件においては、仮に存在するとしてもその数量は僅少と推認するのが相当であるし、社長等の個人的飲用についても事柄の性質上前記のビール仕入本数の認定の合理性を左右するほどのものではないものと推認するのが相当というべきである。

さらに原告は、(う)変記号の付されたビール八八ケース、(え)昭和三〇年六月一八日仕入分のうち一〇ケース、(お)昭和三〇年度中の戻入れビール合計四二四ケース(別表六記載のとおり)を控除すべきであると主張する。しかし、右(う)については、前掲乙第二六号証及び証人石森宏宜の証言によれば、前記の変記号の付されたビールとは、明治屋から原告に対する裏売分の一部を明治屋卸売部の売上実績にするため変名ないし架空人宛に売却したかの如く装って経理したにすぎないものと認められることから、これを原告の簿外仕入分から除外すべき理由はない。次に(え)についてみると、前掲乙第二〇号証によれば、昭和三〇年六月一八日付の明治屋の小売原簿にはキリンビール五ケース、単価一二五円、借方欄四五、〇〇〇円と記載されており、この記載のみからすると、ビールの仕入数量は、五ケースなのかそれとも一五ケース(45,000÷125=360、360÷24=15 )なのか判然としないともいえるが、右乙第二〇号証によれば、昭和三〇年六月中の仕入金額は九二二、六四五円であるところ、右金額から同月分の空びん戻入金額一〇二、八〇〇円を控除すると差引純仕入額は八一九、八四五円となり、一方、原告は、同年七月二〇日に六月分として八一九、八八五円の支払いをしていることが認められるから、これらからすると、前記の六月一八日のビール仕入数量については一五ケースとみるのがより合理的というべきである。蓋し、一五ケースとすれば四五円の過払いにすぎないが、五ケースとすると二一〇、〇四五円の過払いとなるからである。最後に(お)についてみると、まず、別表六の一月一九日分の合計二一ケースについてみると、前掲乙第二〇号証の右月日欄には戻入ビール、九ケース、単価二八八円、貸方欄に二、五九二円及び同一四ケース、単価二八八円、貸方欄に四〇三二円とそれぞれ記載されているところ、なるほど右記載中には戻入ビールなる表示がしてあるものであるが、単価並びに貸方欄記載の事実及びその金額からすると、右戻入ビールなる記載がビール空びんの戻入れを意味することは明らかであり、このことは原告が別表六において主張する他のすべてについても同様と認められるのであるから、原告主張のビールを戻入れビールとして除外すべき理由はない。

エ 売上高の算定

前記認定の公表分売上高五九、五二一、二五〇円を公表分ビール使用本数七四、八四二本で割ると、公表分のビール一本当たり売上高は七九五円(円未満切捨て)となり、これに実際使用本数一〇〇、〇一八本を乗ずると、実際売上高は七九、五一四、三一〇円となることが明らかである。

(3) ところで、原告は、ビール基準の適用に当たっては、月毎の売上高とビール使用本数とを対比してビール一本当たりの売上高を算出し、これに月毎の実際使用本数を乗じて売上高を算出すべきであるのに、被告がこれを年間通算方式で行なったのは、粗雑極わまりなく合理性を欠くと主張するので、以下検討する。

ア まず、各月毎の公表分売上高についてみると、前記のように、A伝票に基づく売上高は、売上帳(前掲乙第一〇号証)に計上されているところ、一月から三月までは顧客人員は明らかではないが、売上帳に席料の記載が存するので、右期間中の公表分売上高は、売上帳記載の各月毎の売上高に各月毎に計上されている席料を加算した金額とし、四月から一二月については顧客人員の記載はあるが席料の記載はない(但し、四月については後記のとおりである。)ので、売上帳記載の各月毎の売上高に、休日の顧客については一人につき一〇〇円を乗じた額を、それ以外の日については顧客一人につき二〇〇円(以上の席料額については既に認定したとおりである。)を乗じた額をそれぞれ加算した金額をもって各月毎の公表分売上高とするのが相当というべきである。なお、四月分については、前掲乙第一〇号証の売上帳には席料の記載が認められるが、同月の顧客人員は別表一〇記載のとおり休日合計七九人、平日合計三九五九人と認められるから右人数を算定の基礎とする。これを具体的に示すと、別表一一の1の公表分売上高欄記載のとおりと認められ、この認定を左右するに足りを証拠はない。

イ 次に各月毎の公表分ビール使用本数についてみるに、前掲乙第一〇号証の売上帳によれば、公表分売上高に対応する公表分ビール使用本数は別表一一の1の公表分ビール使用本数欄記載のとおり認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

ウ 実際ビール使用本数は、前掲乙第一九号証ないし第二一号証、第二三号証、第二五号証ないし第二七号証並びに証人石森宏宜の証言によれば、各月毎の簿外仕入本数は別表一一の2の簿外仕入本数欄記載のとおりと認められ、右認定に反する原告主張(原告の反論二の2)が失当であることは、既に前項のウで説示したとおりであり、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、各月毎の営業用に使用されたビール本数の算定に当たり期首及び期末在庫量に変動がないものとする方法に合理性があることも前示のとおりであり、店外贈答用等に使用されたビール本数については、前掲乙第二四号証、第三一号証、第五五号証、第一一七号証及び証人石森宏宜の証言によれば、原告は、昭和三一年度中に簿外で贈答用としてビールを交番に対し毎月一ケース、警察に対し中元及び歳暮時に各一〇ケース、消防署に対し、中元、歳暮及び近火見舞時に各一〇ケース、各種説明会に年間三〇ケース(年一〇回開催、一回当たり三ケース使用)、町内会に年間六ケース、及び同業者の開店祝に四〇ケースをそれぞれ使用していたものと認められるところ、右贈答先、その時期及び性格等からすると、昭和三〇年度中にも右と同程度の贈答用ビールが使用されたものと推認するのが相当であること前述のとおりである。そして、この贈答用ビールを各月毎に配分するに当たっては、中元は七月に、歳暮は一二月にそれぞれ使用されたものとし、その余については各月に等しく配分するのが合理的というべきところ、これを具体的に示すと別表一一の2店外贈答用ビール本数欄記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

そうすると、他に営業用以外に使用されたビールの存することを認めるに足りる証拠はないから、前記の各月毎の仕入本数から右の各月毎の店外贈答用使用本数を控除し、これに各月毎の公表分ビール使用本数(前項イ)を加えると、各月毎の実際使用ビール本数が別表一一の1の実際ビール使用本数欄記載のとおりとなることは明らかである。

エ そこで、以上認定の各数字を基礎に公表分ビール一本当たり売上高を各月毎に算出し、これに各月毎の実際ビール使用本数を乗じて各月毎の売上高を算出すると、別表一一の1の実際売上高欄記載のとおりとなることは明らかである(なお、ビール一本当たり売上高の算出に当たっては、円未満は切り捨てた。)そうすると、右方法による昭和三〇年度の合計売上高は七六、八五二、九〇五円となる。

(4) 以上の(2)及び(3)の結果によれば、年間通算方式による売上高の方が日毎に区分して計算した売上高より二、六六一、四〇五円大きくなることが認められるところ、別表一一の1からも明らかなように、月毎の公表分ビール一本当たり売上高をみると最低値の六五八円(一月)から最高値の九二二円(一〇月)まで相当の開きがあるし、各月毎のビール使用本数にも相当の開きがあることが認められることからすると、一応各月毎に最出する方式の方が精度が高いものということができるし、また推計の安全値を考慮し、前記の七六、八五二、九〇五円を原告の昭和三〇年度の売上高とするのが相当である。

(5) 従って、原告の計上した売上高が五六、五二三、五五〇円であることは当事者間に争いがないから、前記の売上高から右計上額を控除すると、売上脱ろう額は二〇、三二九、三五五円となる。

(三)  雑収入計上もれ

弁論の全趣旨により成立が認められる乙第一七号証及び前掲乙第二五号証によれば、植手富美子は、昭和二九年ころから明治屋に対しビール等の仕入れに係る割戻金の現金による支払いを要求 (現金による支払いを求めたのは、入金の事実を隠ぺいするためである。)し、明治屋も右要求に応じてきたところ、昭和三〇年度中におけるビール及び日本酒の仕入れに係る割戻金の支払合計額は七九九、七四〇円になることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(四)  受取利息計上もれ

(1) 前掲乙第九一、九二号証、成立に争いのない乙第八〇号証の一、二によれば、原告代表者加藤幸三郎は、昭和二七、八年ころから経理責任者植手富美子に命じてアスターハウス店の売上げを除外し、この除外した金員により東海銀行銀座支店等に無記名定期預金ないし高橋幸雄等の架空人名義による普通預金を設定保有してきたもので、その額は、右加藤の供述するところによれば四〇〇〇万円にのぼることが認められ、右認定に反する乙第二八号証及び乙第一二〇号証の各記載は、前掲各証拠に照らして採用し難く、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(2) そこで、以下被告主張の各預金について、原告への帰属及び利息等の発生の有無について検討する(なお、以下においては別表三の1ないし4の各預金を同表上欄に記載された付番で呼ぶことにする。)。

ア 付番1及び2について

成立に争いのない乙第六三号証、第八七号証の一、二及び証人野口武の証言(第二回)により成立が認められる乙第一三〇号証の四によれば、右各預金は、いずれも昭和二八年一一月二八日東海銀行東京支店に設定されたものであるが、いずれも同三〇年五月二三日に解約され、付番1は同10へ、付番2は同11へそれぞれ振り替えられていること、付番10及び11の預金(特別定期預金)元帳の定期預金印鑑欄に押印されている加藤名の印影は昭和三三年七月一七日原告から東京国税局収税官吏に任意提出された加藤名の二箇の印鑑のうちの一つによる印影と同一であることが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、他に反証がない以上右付番1、2、10及び11の各預金は原告に帰属するものと推認するのが相当というべきである。

そして、前掲乙第一三〇号証の四によれば、右各預金から昭和三〇年五月二三日支払われた利息の額は別表三の1記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

イ 付番3ないし6について

成立に争いない乙第六〇、六一号証、第六四号証、第八〇号証の三及び九、第八一号証の一、二、第八二号証及び証人野口武の証言(第一回)により成立が認められる乙第一三〇号証の三並びに野口武の右証言によれば付番3ないし5の各預金は、いずれも昭和二九年四月三〇日に、付番6の預金は昭和二九年六月三〇日にそれぞれ東海銀行銀座支店に設定され、付番3及び6には加藤名の印影(但し、同一の印鑑によるものではない。)が、付番4及び5には石田名の印影(同一の印鑑によるものである。)がそれぞれ押印されているところ、これらの3ないし6の預金はいずれも昭和三〇年六月七日に解約され支払われているが、その元本相当額(いずれも一、〇〇〇、〇〇〇円である。)は同支店普通預金口座A四一二(預金者住所・氏名中央区銀座三-五加賀定一)から右六月七日に払い出された二、〇〇〇、〇〇〇円と合わせて合計六、〇〇〇、〇〇〇円により付番12の預金が設定され、右預金はその後付番17、同22へ順次預け替えられたこと、一方、付番4及び5の預金証書に押印されている石田名の印影に合致する印鑑が昭和三三年六月一七日東京国税局収税官吏によって使なわれた差押の際原告の社長室で差し押えられており、また、付番22の預金証書に押印されている印影は前記(四)の(1)に記載したように原告に帰属する高橋幸雄名義の普通預金(通帳番号一〇四一〇号)に届出使用された印鑑の印影と同一であることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、他に反証がない以上付番3ないし6、17、22の各預金は原告に帰属するものと推認するのが相当というべきである。

そして、前掲乙第一三〇号証の三によれば、付番3ないし6から昭和三〇年六月七日に支払われた割増金及び利息の額(税抜き)は別表三の1に記載されたとおりであることが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

ウ 付番7及び9について

成立に争いのない乙第八〇号証の五及び証人野口武の証言(第二回)により成立が認められる乙第一三〇号証の一並びに野口武の右証言によれば、付番7の預金の印鑑票の備考欄には原告加藤幸三郎の氏名が記載されていること、右預金の元本三、〇〇〇、〇〇〇円は順次付番9、16、21、29、LG九〇二八番の各無記名定期預金に預け替えられている事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、前掲乙第九三号証、成立に争いのない乙第九〇号証、前記野口武の証言並びにこれにより成立が認められる乙第八九号証によれば、前記のLG九〇二八番の預金証書には加藤名の印影が押印されているのに、これに対応すべき定期預金印鑑紙には高橋名の印影が押印されているところ、右は昭和三二年一一月ころ原告に対する税務調査が東海銀行銀座支店で行なわれた際、同支店の貸付担当者であった矢内幸男が原告に帰属する預金であることを隠ぺいするため定期預金印鑑紙を前記のように他の印鑑を押印したものとすり替えていたことが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、他に反証がない以上、付番7、9、16、21の各預金は原告に帰属するものと推認するのが相当というべきである。

もっとも、前掲乙第九三号証及び証人佐々木善春の証言により成立が認められる乙第九五号証によれば、付番7、9、16、21の各預金は、東海銀行の原告代表者に対する債権の担保に供されていたものと推認されるところ、原告代表者は、東海銀行銀座支店に預金担保として設定してある三、〇〇〇、〇〇〇円の預金は代表者個人の資産である旨供述しているところであるが、前記(四)の(1)に判示したように相当額に及ぶ原告の簿外預金が原告代表者の管理下にあったことや前記認定の事実からすると、預金が原告代表者の債務の担保に供されているからといって直ちに右預金が原告代表者に帰属するものとはいえず、他に右供述を裏付ける的確な証拠もない以上前記推認を左右するには足りないものというべきである。

そして、前掲乙第一三〇号証の一によれば、付番7から昭和三〇年五月六日に、同9から昭和三〇年一一月八日に各支払われた割増金及び利息の額(税抜き)は別表三の1に記載されたとおりであることが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

エ 付番8について

成立に争いのない乙第六二号証、第八二号証及び証人野口武の証言(第二回)により成立の認められる乙第一三〇号証の二並びに証人野口武の証言によれば、付番8の預金元本五、〇〇〇、〇〇〇円は、順次付番13、18、23の各無記名定期預金へ預け替えられていること、付番23の預金の届出印鑑及び受取人欄印章と高橋幸雄名義の普通預金(通帳番号一〇四一〇号)に届出使用された印鑑とは同一のものであることが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、高橋幸雄名義の普通預金が原告に帰属することは前記(四)の(1)に説示したとおりであるから、他に反証がない以上付番8、13、18及び23の各預金は、原告に帰属するものと推認するのが相当というべきである。

そして、前掲乙第一三〇号証の二によれば、付番8から昭和三〇年七月一一日に支払われた利息の額(税抜き)は別表三の1記載のとおり六六四、九八九円であることが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(五)  以上の(二)ないし(四)によれば、原告の昭和三〇年度の申告所得金額に加算すべき金額は、合計二一、七九四、〇八四円となり、減算金額が三、九〇八、〇四六円であることは当事者間に争いがないから、これを控除すると、右年度の所得金額は、二〇、七一九、五一五円となり、再更正による所得金額を上回っていることは明らかであるから、本件再更正に所得を過大に認定した違法はない。

なお、原告は、東京都内におけるキャバレー営業の一般的標準的利益率(利益の売上高に占める割合)は約一割であるとし、これに比較すると、原告の利益率は著しく高率であり、原告がかかる高利益をあげる特別な事情も明らかにされていないことからすると、まさに被告の推計方法の不合理性を物語っているものと主張する。しかし、本件全証拠を検討しても、東京都内のキャバレー営業一般的標準的利益率が約一割であることを認める証拠はないから、原告の右主張は前提において誤っており採用できない。原告の売上高の算定が合理的になされたことは既に説示したとおりである。

(六)  重加算絶賦課決定

本件再更正に違法の点がないことは、前判示のとおりであり、また、前記の(二)ないし(四)の事実に照らせば、原告が課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし又は仮装したところに基づいて確定申告書を提出したことは明らかであるから、本件重加算税賦課決定に原告主張の違法はない。

3  昭和三一年度

(一)  被告の主張(課税根拠について)二の1のⅠ申告所得金額及びⅢの減算金額並びに同2の(一)の(1)の売上高原告計上額は、当事者間に争いがない。なお、原告は右申告所得金額の認否につき昭和三〇年度と同様に右申告額に見合う所得の存在まで認めるものではない旨主張するが、真実の所得金額が申告所得金額を下回るというためにはこれを首肯させるに足りる特段の事情がなければならないところ、これを認めるに足りる証拠はないから、少くなくとも申告所得金額に見合う所得は存したものと推認するのが相当というべきである。

(二)  昭和三一年一月から一一月までの売上高について

(1) 被告は右期間の売上高をビール基準による推計の方法により算出しているので、まず右方法の合理性について検討する。

被告のいうビール基準とは、右期間については、原告の公表分の各月毎遊興飲食費(税抜き)売上高(総勘定元帳記載の売上高)に脱ろう席料を加えて各月毎の公表分売上高を求め、これを公表分の各月毎のビール使用本数(売上帳記載のもの)で除して各月毎のビール一本当たりの売上高を算出し、これに右各月のビール実際使用本数を乗じて各月毎の税抜売上高を求めるというものであることは、その主張自体から明らかである。

ところで前記2の(二)の(1)に掲記の各証拠によれば、アスターハウス店では、昭和三一年度においても、顧客に対し最初のワンセットには必ずビールを提供し、飲物の主たる部分をビールが占めていたこと、また、記帳経理の方法及び社交員に対するサービス料のシステム並びに売上除外の方法等についても席料額の点を除き、昭和三〇年度と同様であった事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、昭和三一年度についてもアスターハウス店のビール使用本数は顧客に対する売上高と、また、A伝票は原告の公表帳簿である売上帳及び総勘定元帳の売上勘定とそれぞれ対応関係にあるものと認められるから、前記の被告の採用したビール基準による売上高の推計方法は、その算出の基礎となる数字に誤りがなければ合理性を有するものというべきである。従って、公表分売上高と公表分ビール使用本数との間には関連性がないとする原告の主張の理由のないことは、昭和三〇年度におけると同様である。

(2) 推計の基礎となる数字について

ア 公表分売上高のうち公表分席料計上もれ額を除く、各月毎の公表分税抜売上高(原告の総勘定元帳の売上勘定に計上されたもの)については当事者間に争いがないので、以下、右の公表分席料計上もれ額について検討する。

まず、席料額についてみるに、前掲乙第一二号証、第一五号証、第五五号証、第一〇二号証及び第一〇九号証並びに証人野口武の証言(第一、二回)によれば、アスターハウス店の席料は、顧客一人につき昭和三一年一月から三月までは二〇〇円、四月から一二月までは三〇〇円(但し、休日は年間を通して一〇〇円)であったが、原告は、総勘定元帳には一人につき一〇〇円を徴収していたものとして計上してその差額を脱漏していた事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

次いで顧客人員についてみるに、証人野口武の証言(第一回)により成立が認められる乙第九号証の一、二及び前掲乙第一一号証並びに右野口の証言によれば、昭和三一年度中の各月毎の顧客人員(但し、休日分を除く。)は、別表二の2記載のとおりと認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

してみると、各月毎の脱漏席料額は、昭和三一年一月から三月までは一〇〇円を、四月から一二月までは二〇〇円を右別表二の2記載の各月毎の顧客人員に乗ずると別表一二の1記載の金額となり、これに前記の争いない公表分税抜売上高を加算すると公表分売上高は同表2記載のとおり合計五八、七一八、八五〇円となることが明らかである。

なお、被告は、公表分席料計上もれ額として、前記の脱漏分席料とこれに対する遊興飲食税相当額(脱漏席料の一五パーセント)とを加算した金額を主張しているが、公表分税抜売上高が遊興飲食税を含んでいないことは明らかであるから、右の公表分席料計上もれ額についても税抜きとすべきであり、これを含ましめるのは妥当ではない。

イ 公表分ビール使用本数

前記3の(二)の(1)の事実に照らせば、公表分ビール使用本数が売上帳(前掲乙第一一号証)に基づき算出されることは既に前記2の(二)の(2)のイに説示したのと同様であり、右乙第一一号証によれば、各月毎の公表分ビール使用本数は別表四のB欄記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

ウ 実際使用ビール本数

前掲乙第一九号証、第二一号証、第二三号証、第二五号証ないし第二七号証及び証人野口武の証言(第一回)により成立が認められる乙第二二号証(なお、右乙第二二号の認否につき当初、原告が成立の真正を認める旨の陳述をしていたところ、後にこれを撤回してその成立の真正を否認したのに対し、被告は、右は自白の撤回に当たるから、真実に反しかつ、錯誤に基づくことの立証がなされない限り許されないと右撤回に異議を述べているところであるが、書証の成立の真正についての自白は裁判所を拘束するものでないことは既に前記2の(二)の(2)のウに述べたとおりであるから、右自白の撤回は許されるものと解すべきである。)並びに証人伊藤一夫の証言によれば、アスターハウス店が昭和三一年度中の各月に明治屋及びぬ利彦から仕入れたビールの数量は別表一二の3のビール仕入本数欄記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない(なお、乙第一二六号証によると、昭和三一年九月二六日、一〇月四日、八日、一〇日の各仕入数量はいずれも一八ケースと記載されているが、単価及び借方欄記載の金額からするといずれも一二ケースの誤りと認められる。)。

そこで、以下右仕入数量のうち実際に営業用として使用されたビールの数量について検討するに、まず、各月毎の期首及び期末在庫量についてみると、前記2の(二)の(2)のウに判示したように同所掲記の各証拠によれば、昭和三一年度においても、アスターハウスのビール保管設備、在庫状況及び仕入状況は、昭和三〇年度と格別異なったところはないものと認められるから、右三一年度においても、各月の期中における仕入量をもって各月中の使用量とする算出方法に合理性があるものというべきである。

次に、前記の仕入数量のうち営業用以外に使用された数量につき検討するに、まず、店内接待用に使用された数量についてみるに、前掲乙第一一、一二号証、第一〇三号証、第一〇九号証及び第一一三号証によれば、原告は昭和三一年度においても、店内接待客があった場合にはその都度提供した飲食物の種類及び数量を記載した接待伝票を起こし、これをそのまま売上帳に転記していた事実が認められるところ、昭和三一年度の売上帳(右乙第一一号証)によれば、各月分の右数量は別表一二の3の接待贈答用本数欄の右側記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない(なお、乙第一二一号証の中には接待伝票の一部を破棄していた旨の記載があるが、右掲記の各証拠に照らして採用し難いこと既に述べたとおりである。)

続いて、店外贈答用等に使用された数量について検討するに、前掲乙第二四号証、第三一号証、第五五号証及び第一一七号証によれば、原告は、簿外で贈答用として、ビールを交番に対し毎月一ケース、警察に対し中元及び歳暮時に各一〇ケース、消防署に対し中元、歳暮及び近火見舞時に各一〇ケース、各種説明会に年間三〇ケース(年一〇回開催、一回当たり三ケース使用)、町内会に年間六ケース及び同業者の開店祝に四〇ケースをそれぞれ使用していたものと認められるところ、これを各月毎に配分するについては、中元は七月に、歳暮は一二月に行なわれたものとして、その余については各月に等しく配分するのが合理的というべきであるから、これによると各月毎の贈答用等使用本数は七月及び一二月は六七六本、その余の各月は一九六本使用されたものと認められる。なお、右乙第二四号証中には、簿外で店用接待用として年間三〇〇ケースを使用した旨の記載が存するが、前記のように店内接待用ビールの使用量は、接待伝票に基づいて正確に記載されていたものと認められるのであるから、右記載はにわかに採用し難い。

そうすると、他に営業用以外に使用されたビールの存在を認めるに足りる的確な証拠もないから、営業用に使用された各月毎のビール使用本数は、各月毎のビール仕入本数から前記の店内接待用及び店外贈答用等に各使用されたビールの本数を控除して算出され、その数量は別表一二の3の実際使用本数欄記載のとおりとなる。

原告は、仕入本数から除外すべき店内外接待用ビール使用本数の算定が恣意的である旨主張するが、右主張が失当であることは前示認定の経緯に照らして明らかである。また、盗難、破損等のため営業用として使用できないビールの数量は年間三、〇〇〇本以上に及ぶと主張するが、右主張が失当であることは、前記2の(二)の(2)のウにおいて説示したのと同様である。次に、原告は、昭和三一年二月一四日仕入れの一二ケースは取り消されているから控除されるべきであると主張するので検討するに、前掲乙第二一号証によれば、右一二ケースの借方欄に(取消)と記載されている事実が認められるが、前記の昭和三一年二月分のビール仕入本数(別表一二の3記載のとおり九、四八〇本である。)中には右一二ケースは含まれていないのであるから、原告の右主張は失当である。

エ 売上高の算定

前記のアないしウにおいて認定した各月毎の公表分売上高(脱漏分席料を加算したもの)を公表分ビール使用本数で除して公表分ビール一本当たり売上高を算出すると、別表一三の公表分ビール一本当たり売上高欄記載のとおり(円未満切り捨て)であり、これに各月毎のビール実際使用本数を乗ずると、各月毎の売上高は、同表売上高欄記載のとおりとなることは明らかである。そうすると、昭和三一年一月から一一月までの合計税抜売上高は八八、五九五、七二五円となる。

(三)  昭和三一年一二月分売上高について

(1) 被告は右期間の売上高を公給領収証基準による推計の方法により算出しているので、まず、右方法の合理性につき検討する。

被告のいう公給領収証基準とは、原告が発行した各月毎の公給領収証控の総計金額欄の合計額にその合計額のうちに含まれる原告の収納すべき飲食料金の割合(飲食料率という。)を乗じて各月毎の税込売上高を算出し、これから遊興飲食税相当額を控除して各月毎の売上高を求めるというものであることは、その主張自体から明らかである。

右方法は、公給領収証の発行が売上げに対応して確実に行なわれ、かつ、発行された公給領収証の内容、少なくとも公給領収証の総計金額欄の金額が十分に把握され得ること及び飲食料率がアスターハウス店の実際に即応している場合には合理性を有するものということができるのであるから、以下右観点から検討する。

まず、アスターハウスにおける経理の概況及び公給領収書発行の手続についてみるに、前掲乙第一二号証ないし第一四号証、第五五号証、第一〇二号証、第一〇九号証ないし第一一九号証及び第一二二号証並びに証人野口武の証言(第一回)を総合すれば、次の事実を認めることができ、右認定を左右する証拠はない。

公給領収証制度は昭和三〇年一一月から施行された(この事実は当事者間に争いがない。)ものであるが、アスターハウスにおける経理の組織及び方法並びに公給領収証発行の手続は概ね次のようなものであった。

アスターハウスの経理事務を担当する組織は、アスターハウス店の営業時間中(午後五時から一二時ころまで)に売上伝票、通し伝票及び公給領収証等を作成し、売上金の収納を行なう店内係と、右店内係が作成した伝票類の整理及び会計帳簿の作成等を原告事務所内で行なう事務所係とに大別される(但し、売上金等の現金管理は専ら植手富美子が行なっていた。)。店内係は、前記各伝票を発行して顧客の飲食の内容を明らかにし、清算時には社交員に対し、飲食費及びこれらに対する遊興飲食税相当額を加算した売上金額(但し、内訳の記載はない。)を記入した会計伝票を交付した。社交員は交付された右会計伝票に基づき顧客との間でサービス料を決定し、現金による支払がある場合には会計伝票に売上金額を添えて店内係に提出し、同時にサービス料の金額を報告して公給領収証の交付を受けた(但し、現金による支払いをする顧客の中に僅かではあるが公給領収証の交付を受けない者もいた。)。他方、貸売りの場合には、社交員は、その旨店内係に告げるとともに、交付を受けた会計伝票を返し、店内係は、これに基づき売上伝票に「貸」の記載をするとともに、売上日付、社交員名、売上金額等を記載した貸帳を作成していた。貸売りの場合における公給領収証の交付は、まず社交員が売上日時、売上金額及び総計金額(売上金額にサービス料を加算したもの。)を記載して公給領収証の発行を求める公給領収証発行メモを店内係に渡すと、翌日事務所係で後記のような所定の手続を経て公給領収証が作成され、再び店内係を通じて社交員に手交される仕組みになっていた。

このようにして店内係において作成された伝票類及び貸帳並びに収納された現金は、閉店時一括して植手富美子に渡され、同人はこれらから現金のみを抜き取り、伝票類及び貸帳は事務所係に引き継がれた。

事務所係ではまず、菅野智恵子が植手富美子から指示された公表帳簿計上額に基づき、売上伝票を上記計上額に見合う売上伝票とそれ以外の売上除外分に当たる売上伝票とに区分し、前者をA伝票、後者をB伝票と称していたが、右B伝票は最終的には破棄されていた。そして、A伝票に基づき公表帳簿である売上帳が作成され、この売上帳計上の売上高に顧客一人当たり席料一〇〇円が加算されて総勘定元帳の売上勘定に計上された。なお、席料については、実際は昭和三一年一月から三月までは顧客一人に対し二〇〇円が、同年四月から一二月までは三〇〇円がそれぞれ徴収されていたものであるが、右のように総勘定元帳には顧客一人につき一〇〇円を徴収しているものとして計上され、残額は売上げから除外されていた。

次に貸売分に対する公給領収証の作成手続についてみると、事務所係は、あらかじめA伝票及びB伝票に基づき売上日、社交員名、売上金額等を記載したA帳及びB帳を作成するとともに、これに見合う公給領収証を発行し、社交員から前記の公給領収証発行メモが提出されると右各帳簿で売上げの事実を確認し、売上げの事実が確認された分についてだけ公給領収証の交付を行なっていたものである。そして、公給領収証が交付された分については、A帳及びB帳の該当箇所を抹消するなどして二重に発行されることを防止していたものである(なお、この点につき、乙第三〇号証、第一一三号証、第一一五号証及び第一一六号証には、売上げの事実がない場合や一回の売上げに対し二重に公給領収証が交付されたことがある旨の供述記載が存するが、右供述記載は、いずれも自己の具体的経験に基づくものではなく、単なる風聞であったり、また自己の具体的体験として述べられたものもその内容はあいまいであって、到底採用の限りではない。)。

そして、都税事務所に対する遊興飲食税の申告に当たっては、前記の売上帳に計上した分だけの売上げがあったものとし、これに対応する公給領収証については、前記のようにA伝票及びB伝票に基づき発行されたすべての公給領収証の番号をメモし、このメモに基づき発行した公給領収証番号を申告していたものであるが、申告時に公給領収証の写を都税事務所へ提示したことはなかったものである。

右事実によれば、原告においては、公給領収証の発行は、現金売りの分については僅かな例外を除いて励行されていたものであるし、貸売りの場合には飲食の事実に基づかない発行や二重発行の防止を図っていたものと認められる。そして、右事実に、公給領収証の発行が義務づけられていること及び証人野口武の証言(第一回)によれば公給領収証制度は既に施行後一年を経過し制度的にも定着してきたものと認められるなどの事情を勘案すると、昭和三一年一二月ころのアスターハウスにおいては、ほぼ売上げに対応した公給領収証の発行が行なわれていたものと推認するのが相当である。(なお、前記認定のように、現金売りの中に僅かながら公給領収証の発行が行なわれなかったものも認められるが、この程度では売上げと公給領収証との対応関係を著しく阻害するとはいえないし、かかる事実は原告の売上げを実際よりも過少に認定することに結びつくものであるから、原告にとって不利益ということはできない。)

(2) 推計の基礎となる数字について

ア 原告の昭和三一年一二月分の公給領収証控の総計金額欄の合計金額が二七、二九〇、〇一九円である事実は当事者間に争いがない。

ところで、前項に判示したように、アスターハウスでは発行したすべての公給領収証の番号をメモし、このメモに基づき遊興飲食税の申告を行なっていたところ、証人野口武の証言(第一回)により成立が認められる乙第三三号証、前掲乙第五五号証、証人野口武の右証言によれば、昭和三一年一二月分については、右公給領収証番号メモに記載されている公給領収証に対応する公給領収証控が押収されていること、前記の当事者間に争いない一二月分公給領収証総計金額欄の合計額は、右の押収された公給領収証控の総計金額欄の金額の合計額に等しいことの各事実が認められ、この事実によれば、昭和三一年一二月に発行された公給領収証のすべてが補捉されているものというべきである。

イ 飲食料率

(あ) 公給領収証の総計金額欄に記載された金額が原告の収納すべき売上金額(飲食費、席料、遊興飲食税)と社交員のサービス料(立替金を含むこともある。)を合算したものであることは、前記(1)に判示したとおりであるが、右総計金額中に占める売上金額の割合を把握するためには、公給領収証控から売上金額と総計金額の双方の把握が可能か、または、公給領収証控とこれに対応する売上伝票とから右各金額が明らかになる必要があるというべきところ、前掲乙第五五号証、第一〇九号証及び第一一七号証並びに証人野口武の証言(第一回)によれば、アスターハウスの公給領収証控のうち昭和三二年二月以前の分については、席番、社交員名、飲食費等の売上金額の記載がなく、総計金額欄の記載しかないため、右公給領収証控と押印済みの売上伝票との対照ができないことが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。右事実によれば、昭和三二年二月以前の分については公給領収証控自体からも、また、売上伝票との対照からも飲食料率の算出が不可能というべきである。しかし、昭和三二年三月以降についてみると、前記(三)の(1)に説示したよのに、アスターハウスの事務所係の菅野智恵子は、植手富美子の指示に基づき、売上伝票を公表分であるA伝票と売上除外分であるB伝票に区分していたものであるが、前掲乙第一三、一四号証、第五五号証、第一〇九号証、第一一二号証、第一一四号証、第一一七号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立が認められる乙第三五号証の一ないし一五六の各一、二、第三六号証の一ないし三の各一ないし一〇一及び第三七号証の一ないし三の各一ないし一〇二を総合すれば、右A伝票に対応する公給領収証の発行手続は以下のように行なわれていたことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

まず、A伝票に基づき、席番及び社交員名を記入するとともにA伝票記載の飲食費に席料及びこれらに対する遊興飲食税を算出してこれらを公給領収証の料金計欄、遊興飲食税欄及び両者の合計額を合計欄に記入しておき、社交員からサービス料を記載した公給領収証発行請求メモが提出されると、右のようにあらかじめ記入しておいた公給領収証との同一性を確認して、これに総計金額を書き入れて社交員に交付していた。他方、B伝票に対応する公給領収証については、前記のような料金計欄、遊興飲食税欄及びその合計金額欄等の記載をせずに、社交員からの前記の請求メモに基づき総計金額欄のみを記入して交付し、公給領収証の簿冊についてもそれぞれ別冊を使用し、B伝票に基づく公給領収証の簿冊の表紙には立替分ないし税込立替なる表示をして両者を区別していた。

右事実によれば、昭和三二年三月分以降については、A伝票とこれに対応する公表分公給領収証控から総計金額欄の金額及び売上金額の両者を明らかにすることが可能となり、従って、飲食料率の算出が可能となる。

(い) ところで、前記のように昭和三一年一二月から同三二年二月までについては飲食料率の算出が不可能であるが、アスターハウス店においては、社交員収入であるサービス料は、社交員と顧客との間で決せられる自由チップ制を採用していることは既に述べたとおりであり、昭和三二年度においても右制度が採用されていたことは弁論の全趣旨より明らかである。そうすると、飲食料率は、右社交員サービス料の総計金額に占める割合により変動するものであるが、前掲乙第一三、一四号証、第一〇九号証及び第一一五、一一六号証によれば、サービス料の割合は社交員により差異があるものであるが、植手富美子においては公給領収証発行の際、サービス料を飲食料金の概ね四割程度になるよう指導していた事実が認められるし、また、後記認定のように昭和三二年三月から一二月までの各月毎の飲食料率は六三パーセントから六九パーセントの範囲内にあり、これからすると右一〇箇月間の飲食料率の変動は大きいものではないといえるのであるから、これらからすると、昭和三一年一二月から同三二年二月までの飲食料率に右三月から一二月までの飲食料率の最低値を採用することには十分合理性があるものというべきである。

(う) 昭和三二年三月から一二月までの飲食料率

証人野口武の証言(第一回)により成立が認められる乙第四一号証及び前掲乙第五五号証、第一一七号証並びに証人野口武の右証言によれば、昭和三二年三月から一一月について、公表分の売上伝票(A伝票)との対応関係(売上げの同一性)を確認し得る公給領収証控のうち記載の完備したもの(総計金額欄の記載の欠けているものを除く。)の総計金額欄の各月毎の合計額は、被告の主張(課税根拠について)の三の2の(一)の(2)のアの(ロ)の(c)欄記載の表の公給領収証控総計金額欄記載のとおりであり(なお、原告は、右の合計金額をA伝票との対応関係が確認し得るすべての公給領収証控の総計金額欄の合計金額であると解し、前記の合計金額を認める旨陳述しているが、右合計金額は、公表分公給領収証控のうち前記のように記載の完備した分の合計金額である。)、右の記載の完備した公給領収証控との対応関係が確認された売上伝票の飲食料金に席料(但し、原告は後記のように顧客一人につき昭和三二年三月一日から八日までの日及び休日は一〇〇円、その余の日は三〇〇円を徴収していたので右金額で計算した額)及びこれらに対する遊興飲食税相当額を加算した金額は前記(c)欄記載の表の税込調査料金欄記載のとおりであることが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

そうすると、後者の金額は、原告が社交員を通じて顧客から収納すべき合計金額であるから、右金額をこれと対応関係にある総計金額で除せば、前記表の飲食料率欄記載の各月毎の飲食料率が算出される(小数点以下切り捨て)ことは明らかであり、右算出の方法及び基礎となる金額からみて、右飲食料率は十分合理性を有するものというべきである。以上の認定によれば、昭和三二年三月から一二月までの各月毎の飲食料率の最低値は同年一二月の六三パーセントになるから、右料率をもって昭和三一年一二月の飲食料率とする算定方法には合理性がある。

ウ 昭和三一年一二月分売上高

前記アの二七、二九〇、〇一九円に右の飲食料率六三パーセントを乗ずると一七、一九二、七一一円(円未満切り捨て)となり、これから遊興飲食税相当額を控除すると、右期間の税抜売上高は一四、九五〇、一八三円となる。

算式 〈省略〉

(四)  以上の(二)及び(三)によれば、原告の昭和三一年度の税抜売上高は一〇三、五四五、九〇八円となるからこれから原告計上額六〇、一八七、五四八円(この金額は当事者間に争いがない。)を控除すると、脱ろう売上高は、四三、三五八、三六〇円となる。

(五)  年度途中で推計方法を変更することについて

(1) 原告は、被告が昭和三一年度につきビール基準と公給領収証基準の二つの推計方法を併用したことにつき、区々の推計方法を採用したもので合理性を欠くと主張するので以下検討する。

前掲乙第三三号証、第五五号証及び弁論の全趣旨により原本の存在及び成立が認められる乙第五〇号証の一によれば、昭和三一年一月から一一月までの間にアスターハウス店の発行した公給領収証控の総計金額欄の各月毎の合計額は別表一四の総計金額欄の合計金額欄記載のとおりであり、これに前記の(三)の(2)のイの(ウ)に認定した昭和三二年三月から一二月までの飲食料率のうち最も高い六九パーセントの飲食料率を乗じてアスターハウス店の税込売上高を算出すると別表一四の税込売上高欄記載のとおりとなり、さらに、これから遊興飲食税相当額を控除して税抜売上高を算出すると、同表の税抜売上高欄記載のとおりと認められる。一方、原告の昭和三一年度の総勘定元帳の売上勘定に計上された各月毎の税抜売上高(一部席料の脱ろうがあることは既に述べたとおりである。)は別表一四の公表帳簿売上高欄記載のとおりと認められ、以上の認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和三一年一月から三月までは公表帳簿計上の売上高が公給領収証基準による推計売上高を上回っており、四、五月に両者はほぼ等しくなり以後、次第に後者が前者を上回り、その差を拡大していく傾向が窺われ、この事実からすると、右三一年度の前半においては公給領収証の発行が励行されていなかったことは明らかであり、後半に進むにつれて次第に励行の度を増していくようになったものと推認することができるのである。

ところで、公給領収証基準が適用される前提要件としては、公給領収証の発行が売上げの事実に対応して確実に行なわれている事実が存することを必要とするのであるから、この点からすると昭和三一年度においては基本的には右前提要件を欠いているというほかはない。

しかし、他方、同年一二月にビール基準を適用することの是非についてみると、前掲乙第一五号証、第二九号証及び第一一七号証によれば、一二月には一〇日間程度のクリスマス期間が存するため通常の月に比して相当多額の売上増が存するところ、右売上増はクリスマス券の売上げによるものであるが、アスターハウス店においてはクリスマス券の飲物にはビールを使用しないでシャンペンを使用している事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

そうすると、右クリスマス期間については、ビールは右期間の売上げの指標となり得ないものであるうえ、右クリスマス券による売上高が相当額に上る(前掲乙第五〇号証の一によれば、昭和三一年一二月の公表分売上高は八、二三八、一九八円であり、一方、売上帳によるクリスマス券による売上げ及び席料を含まない計上売上高は四、四二三、二五〇円であるから、前者の金額から右売上帳によって認められる一二月の顧客人員二、八一四人分の原告計上席料額二八一、四〇〇円を減算し、さらにその差額から後者の売上計上額を控除するとクリスマス券による売上高は三、五三三、五四八円となる。従って、クリスマス券による売上高は一二月分売上高の約四二パーセントを占めることになる。)のであるから、右一二月をビール基準で推計することは前提が薄弱で妥当性を欠くものといわざるを得ない。

従って、以上の事情を勘案すれば、昭和三一年一二月は公給領収証制度が次第に浸透し、公給領収証の発行が一層励行されるに至ったと思料される反面、ビール基準適用の前提に問題が存するのであるから、ビール基準の適用に代えて公給領収証基準を適用したことをもって合理性を欠くということはできず、この点に関する原告の主張は理由がない。

(2) 次に原告は両基準を併用すると、一一月期末のビール在庫本数に対する売上げが一一月と一二月に重複して計上されると主張するので検討するに、ビール基準における各月毎のビール使用量の算定については、既に説示したように(前記2の(二)の(2)のウ及び3の(二)の(2)のウ参照)、各月毎の期首在庫量と期末在庫量とに変動がないものとして各月の期中仕入高から当月中の営業外使用量を控除して算出したものであるから、原告主張のような期末在庫量は当該月の売上げの算定基礎とされておらず、従って、この意味において重複計算が生ずることはなく、原告の主張は、前提において誤っており理由がない。

また、原告は、公給領収証の月毎の区分に誤りがあるから売上げの重複計算を助長すると主張する。

しかし、前記の3の(三)のアスターハウスにおける公給領収証発行の手続において認定したように、アスターハウスでは、公給領収証は売上げの事実に基づき、現金売りの場合は当日、貸売りの場合はその翌日発行されていたもので、しかも、この発行されたすべての分について各月毎にメモし遊興飲食税の申告を行なっていたものであるから、推計の合理性を失する程の重複計算が生ずるとは認め難く、よって右原告主張も採用できない。

(3) 原告は、公給領収証制度が施行後一年を経過したのは昭和三一年一〇月であるから施行後一年経過後に公給領収証基準を適用すべしとするなら右一〇月から適用しなければならないと主張する。しかし、被告の主張が単に一年を経過したから適用すべしとするものではなく、公給領収証基準適用の前提要件である公給領収証発行の確実性が認められる時期を判断する一資料としたものであることは明らかであるし、いかなる推計方法を採用するのがより妥当性を有するかの判断は、それぞれの推計方法の妥当するための前提要件の存否、強弱等を総合考量して決せられるべきところ、昭和三一年一二月に公給領収証基準を採用すべきものとしたのは、前記(五)の(1)に説示したとおりであって、単に施行後一年を経過した事実のみによって決せられたものではないから、原原告主張も理由がない。

(六)  雑収入計上もれ

前掲乙第一七号証及び第二五、二六号証によれば、原告が明治屋からビール等の仕入れに対する割戻金の交付を受け、これを隠ぺいしていたものであることは既に三の2の(三)に説示したとおりであり、右各証拠によれば、原告が昭和三一年度中に明治屋から受け入れた割戻金の額は合計七七一、五六〇円と認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(七)  受取利息計上もれ

(1) 原告が売上除外によって得た金員により東海銀行銀座支店等に簿外預金を設定していたことは、前記三の2の(四)の(1)に説示したとおりである。

(2) そこで以下、被告主張の各預金について、原告への帰属及び利息等の発生の有無について検討する。

ア 付番10及び11について

右各預金が原告に帰属することは前記三の2の(四)の(2)のアに説示したとおりであり、前掲乙第一三〇号証の四によれば、右各預金から昭和三一年八月二五日にそれぞれ支払われた利息の額は別表三の2記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

イ 付番16及び21について

右各預金が原告に帰属することは前記三の2の(四)の(2)のウに説示したとおりであり、前掲乙第一三〇号証の一によれば、付番16から昭和三一年五月八日に、付番21から同年一一月八日にそれぞれ支払われた割増金及び利息の額は別表三の2記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

ウ 付番14及び19について

前掲乙第八二号証、成立に争いない乙第八〇号証の六、証人野口武の証言(第二回)により成立が認められる乙第一三三号証の二及び四並びに証人野口武の右証言によれば、付番14は昭和三〇年八月二〇日東海銀行銀座支店に設定されたものであるが、右預金元本は順次付番19、24の預金へそれぞれ預け替えられていること、右24の無記名定期預金証書に押印されている印影は既に説示したとおり原告に帰属する高橋幸雄名義の普通預金(通帳番号一〇四一〇号)に届出使用された印鑑による印影と同一であることが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

右の事実によれば、他に反証がない以上付番14、19、24の各預金は原告に帰属するものと推認するのが相当というべきである。

そして、前掲乙第八〇号証の六及び第一三三号証の二によれば、付番14から昭和三一年二月二〇日、付番19から同年八月二四日各支払われた割増金及び利息の額は別表三の2記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

エ 付番15について

前掲乙第八二号証及び第一三三号証の二によれば、付番15の預金は昭和三〇年八月二〇日東海銀行銀座支店に設定されたものであるが、右預金元本は付番25へ預け替えられていること、付番25の無記名定期預金証書に押印されている印影は高橋幸雄名義の普通預金(通帳番号一〇四一〇号)に届出使用された印鑑の印影と同一であることが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

右高橋幸雄名義の普通預金が原告に帰属することは、既に説示したとおりであり、これに右認定事実を勘案すると、他に反証がない以上、付番15及び25の各預金は原告に帰属するものと推認するのが相当である。

そして、前掲乙第一三三号証の二によれば、付番15から昭和三一年八月二四日支払われた割増金及び利息の額は別表三の2記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

オ 付番13及び18について

右各預金が原告に帰属することは前記三の2の(四)の(2)のエにおいて認定したとおりであり、前掲乙第一三〇号証の二によれば、付番13から昭和三一年二月二〇日、付番18から同年八月二四日各支払われた利息は別表三の2記載のとおり認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

カ 付番20について

成立に争いない乙第八〇号証の四、前掲乙第八二号証及び証人野口武の証言(第二回)により成立が認められる乙第一三三号証の一並びに証人野口武の右証言によれば、付番20は昭和二一年二月一九日東海銀行銀座支店に設定されたものであるが、右預金元本は順次付番28、46へ預け替えられていること、付番28の無記名定期預金証書に押印されている印影は高橋幸雄名義の普通預金(通帳番号一〇四一〇号)に届出使用された印鑑の印影と同一であることが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

右高橋幸雄名義の普通預金が原告に帰属することは既に説示したとおりであり、これに右認定事実を勘案すると、他に反証がない以上付番20、28、46の各預金は原告に帰属するものと推認するのが相当である。

そして、右乙第一三三号証の一によれば、付番20から昭和三一年八月三一日支払われた割増金及び利息の額は別表三の2記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

キ 付番12及び17について

付番12の預金が原告に帰属することは前記三の2の(四)の(2)のイに説示したとおりであり、前掲乙第八二号証及び第一三〇号証の三によれば、付番12の預金元本六、〇〇〇、〇〇〇円は順次付番17、22へ預け替えられていること、付番22の無記名定期預金証書に押印されている印影は既に説示しているとおり原告に帰属する高橋幸雄名義の普通預金に届出使用された印鑑の印影と同一であることが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の各預金の連結状況及び印影の同一性からすれば、付番12、17、22の各預金は、他に反証がない以上、原告に帰属するものと推認するのが相当である。

そして、右乙第一三〇号証の三によれば、付番12から昭和三一年二月二〇日、付番17から同年八月二四日各支払われた利息の額は別表三の2記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

ク 東海銀行銀座支店の加賀定一名義の普通預金(A四一二)について

右普通預金から昭和三〇年六月七日払い出された二、〇〇〇、〇〇〇円が付番12の預金の元本の一部として入金されている事実は、前記三の2の(四)の(2)のイに説示したところであり、付番12及びこれに連結する同17の預金が原告に帰属することは、前項に説示したとおりであるところ、前掲乙第六四号証及び第一三〇号証の三によれば、右12及び17の各無記名定期預金証書には加定名の印影が押印されている事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

右の各事実を総合すれば、他に反証がない以上、前記普通預金は原告に帰属するものと推認するのが相当である。

そして、前掲乙第八〇号証の三によれば、右普通預金から昭和三一年三月一二日別表三の2記載のとおりの利息が発生し、右預金に入金されている事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

ケ 東海銀行銀座支店の高橋幸雄名義の普通預金(一〇四一〇)について

右普通預金が原告に帰属する架空人名義の預金であることは、既に三の2の(四)の(1)に説示したとおりであり、前掲乙第八〇号証の一、二によれば、右普通預金から昭和三一年三月一二日及び同年九月一一日それぞれ別表三の2記載のとおりの利息が発生し、右預金に入金されている事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(八)  以上の(四)、(六)及び(七)によれば、原告の昭和三一年度の申告所得金額に加算すべき金額は四五、七七一、三二一円となり、減算金額が八、六二六、二七三円であることは当事者間に争いがないからこれを控除すると、右年度の所得金額は四三、六八四、八九〇円となり、再更正による所得金額を上回っていることは明らかであるから、本件再更正に所得を過大に認定した違法はない。

なお、原告は、東京都内におけるキャバレー営業の一般的標準的利益率を約一割とし、原告の利益率はこれを著しく上回っているが、かかる高利益率を上げる特別事情が明らかにされていないことからすると、右の高利益率は被告の推計方法の不合理性を物語っていると主張するが、その理由のないことは、前記三の2の(五)に説示したとおりである。

(九)  重加算税賦課決定

前記(二)ないし(七)の事実に照らせば、本件再更正に違法の点がないことは前判示のとおりであり、原告が課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし又は仮装したところに基づいて確定申告を提出したことは明らかであるから、本件重加算税賦課決定に原告主張の違法はない。

4  昭和三二年度

(一)  被告の主張(課税根拠について)三の1のうち、Ⅰの申告所得金額、Ⅲの減算金額及びⅣの寄附金の損金不算入額戻入額並びに同2の(一)の(1)のうち、原告計上額及びその各店毎の内訳は当事者間に争いがない。なお、原告は右申告所得金額を認める趣旨は、形式的数額を認めたに過ぎず、これに見合う所得が存した事実まで認めるものではない旨主張するが、申告所得金額に見合う所得が存したものと推認し得ることは既に昭和三〇、三一年度について説示したのと同様である。

(二)  売上高について

原告が右年度にアスターハウス店の外に、同年六月からマークイズ店及び夜間飛行店を、一〇月からはアスタークラブ店を併せ経営していた事実は、当事者間に争いがないから、以下右各店毎に売上高を検討する。

(1) アスターハウス店

被告は、アスターハウス店の売上高を算出するに当たり、昭和三二年一、二月と三月以降とに区分し、右一、二月については昭和三一年一二月と同様の公給領収証基準により算出し、三月以降については売上高を公表分売上高と簿外分売上高とに区分し、後者を公給領収証基準により算出し、これらによる算出売上高を合計して年間売上高を算出しているので以下順次検討する。

ア 一、二月分売上高

被告採用の公給領収証基準の方法及びその合理性並びに適用するための前提要件については既に三の3の(三)の(1)に説示したとおりであり、右期間中のアスターハウス店の経理の概況及び公給領収証発行手続は右の三の3の(三)の(1)に掲記の各証拠によれば、昭和三一年一二月当時と同様であったことが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると、昭和三二年一、二月においても公給領収証が売上げの事実に対応して発行されていたものと認められるから、公給領収証基準を採用したこと自体は合理性があるものというべく、そこで次に推計の基礎となる数字につき検討する。

(あ) アスターハウス店の一、二月分の公給領収証控総計金額欄の合計金額が一月につき一五、一五〇、一四八円、二月につき一六、一五五、四四一円である事実は、当事者間に争いがない。

そして、前掲乙第三三号証及び第五五号証並びに証人野口武の証言(第一回)によれは、原告が右期間中に発行した公給領収証の控は一冊(公給領収証は一冊の簿冊に一〇〇枚つづられている。)を除き、ほかすべてが捕捉された公給領収証控に基づき算出されたものと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(い) 飲食料率

昭和三二年一月及び二月の飲食料率が算定不能であることは既に三の3の(三)の(2)のイの(あ)に説示したとおりであるが、同(い)に説示したと同様の理由により、右期間の飲食料率に昭和三二年三月から一二月までの最低値を採用することに合理性があるものと認められるから、右各月の飲食料率は、いずれも六三パーセントとするのが相当である。

(う) 売上高の算出

前記(あ)の一、二月の総計金額欄の合計額に前項の飲食料率六三パーセントを乗じ(円末満切り捨て)、これから遊興飲食税相当額を控除すると、右各月の合計税抜売上高は一七、一五〇、〇一七円となる。

イ 三月ないし一二月分売上高

まず、右期間中のアスターハウス店の経理の概況についてみると、前記三の3の(三)の(1)掲記の各証拠によれば、右期間中についても昭和三一年一二月ないし翌三二年一、二月ころと同様であったものと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。次に公給領収証発行の手続についてみると、右三の3の(三)の(2)のイの(あ)に認定したように、公表分の売上伝票であるA伝票に対応する公給領収証の記載内容は、社交員名、席番、飲食料金、席料、遊興飲食税額、合計金額欄及び総計金額欄が記載されているのに対し、売上除外分であるB伝票に対応する公給領収証には総計金額欄のみ記載されており、また、使用された公給領収証も各別冊が使われ、B伝票に対応する簿冊の表紙には税込立替ないし立替分と表示されるなど両者はその取扱いを異にしていた。

右事実によれば、三月から一二月までについては、公表分と売上除外分が公給領収証控の外形的特徴により区別することが可能であり、前者については公表帳簿との照合等により計上額の正確性を検証することができるのであるから、この部分については推計の方法を採用する必要性はないものといわねばならない。他方、後者の売上除外については、既に説示した昭和三一年一二月以降翌三二年二月までの期間の経理状況及び公給領収証発行状況と同様であるから、右売上除外分に係る売上高を公給領収証基準により推計することに合理性があるものというべきである。

(あ) 三月から一二月までの公表分売上高

既に説示したように、原告は、アスターハウス店の売上げのうちA伝票に基づく売上げを売上帳に計上するとともに、売上帳計上の売上高に顧客一人につき一〇〇円の席料を加算してこれを総勘定元帳の売上勘定に計上していた(前記三の3の(三)の(1))ものであるから、まず、席料額について検討するに、前掲乙第一二号証、第一五号証、第五五号証、第一〇九号証及び第一一七号証並びに証人野口武の証言(第一回)によれば、昭和三二年度においては、休日は顧客一人につき一〇〇円を、右以外の日は三〇〇円をそれぞれ徴収していたが、特に三月一日から八日までについては、税務調査を懸念した植手富美子の指示に基づき休日同様一〇〇円にしていた事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。そして、前記野口の証言により成立が認められる乙第九号証の三及び右証言によれば、三月から一二月までの公表分売上伝票に対応する顧客人員は三八、四九三人(但し、休日及び三月一日から八日までを除く。)と認められるから、これに脱ろう分席料額一人当たり二〇〇円を乗ずると脱ろう分席料合計額は七、六九八、六〇〇円となる。

次に、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立が認められる乙第四九号証の一(昭和三二年度分の総勘定元帳の売上勘定)によれば、三月から一二月までの合計計上売上高は五七、三六二、四二〇円(但し、右金額には昭和三二年一二月分売上高のうち期末一括計上分一八、三七三、〇五六円が含まれておらず、また、同月分売上高からクリスマス券社交員割戻し四二六、六〇〇円が控除してある。)と認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

以上によれば、三月から一二月までの税抜公表分売上高は六五、〇六一、〇二〇円となることが明らかである。

(い) 三月から一二月までの売上除外分売上高

右期間中の裏分(公表分の公給領収証以外のもの)の公給領収証控の総計金額欄合計額(但し、三月、七、八月、一一月の推定分を除く。)は当事者間に争いがなく、右各月の飲食料率は既に三の3の(三)のイの(う)に認定したとおりである(なお、右飲食料率は、公表分の売上伝票と公給領収証控とに基づいて算定されたものであるが、公表分と売上除外分の区別は、原告の経理事務の過程で行なわれたものであって、現実の売上実体において区別されたものでないことは既に説示したところから明らかであるから、公表分の飲食料率を売上除外分に適用することには合理性がある。)。

a 推定分について

被告は、裏分の公給領収証控総計金額欄合計額のうち、三月分、四、〇〇〇、〇〇〇円、七月分一、〇〇〇、〇〇〇円、八月分二、〇〇〇、〇〇〇円及び一一月分、一、〇〇〇、〇〇〇円については公給領収証の控が押収されていないが、これを推定により右のように算出しているので検討するに、既に三の3の(三)の(1)に認定したように、原告は、都税事務所に対する遊興飲食税の申告に当たっては、A・B両伝票に基づき発行したすべての公給領収証番号を申告していたものであるが、その際右番号を公給領収証発行番号メモに整理記載していたものであるから、まず、右公給領収証発行番号メモの記載の正確性について検討する。

証人野口武の証言(第一回)により成立が認められる乙第三四号証、前掲乙第三五号証の六ないし一九の各一、二、同号証の五八の一、二、同号証の六八ないし九四の各一、二、同号証の一〇七ないし一五五の各一、二、第三六号証の一の一ないし一〇一、第三七号証の一の一ないし一〇二、第五五号証、第一〇九、一一〇号証、第一一四号証、第一一七、一一八号証、右乙第一一〇号証により原本の存在及び成立が認められる乙第三八号証の二ないし四の各一、二及び第三九号証の一ないし一〇並びに証人野口武の証言(第一回)によれば、公給領収証発行番号メモのうち三月ないし一二月分に記載されている公給領収証番号の中には「○」印又は「立替」の表示がされているものがあること、右各月分のメモに記載されている公給領収証番号のうち右の各表示がされていない公給領収証の控はすべて押印されていて、この押印済みの公給領収証控にはいずれも席番、社交員名、合計金額欄が記載されている(但し、一部に総計金額欄の記載されていないものがある。)こと、このうち、三月分、七、八月分、一〇月分、一二月分並びに五月一日、五日、一〇日、一五日、二〇日、二五日及び三〇日分については右公給領収証控と売上伝票とが符合すること、右「○」印又は「立替」の表示のある公給領収証番号に対応する公給領収証の枚数は、昭和三二年三月から一二月までの間に合計四六〇三枚あるうち、これに対応する公給領収証控が押収されているものは三六〇三枚でその割合は約七八パーセントになること、前記の「○」印又は「立替」の表示がある公給領収証番号に対応する公給領収証控で押収されているものにはいずれも総計金額欄の記載しかないことの各事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

右の諸事実に、公給領収証の発行が法律上義務づけられていることや、既に述べたように原告においてもA帳及びB帳を作成し、売上げの事実に基づかない発行や二重発行を厳重に防止してきた事実及び公給領収証発行番号メモの作成目的が遊興飲食税の申告に際し発行分の公給領収証を明らかならしめるところにあるなどの諸事情を合わせ勘案すると、右メモの信用性は高いものというべきである。

もっとも、一一日分の「立替」の表示のある公給領収証番号のうち、一四七二〇一~一四七三〇〇と二二一〇〇一~二二一一〇〇は一二月分に重複して記載されていることが認められるが、右事実があるからといって直ちに全体の信用性が毀損されるものとは認められない。そうすると、右メモに記載されているもののうち公給領収証控が押収されていない分についても、他に特段の事情がない限り売上げの事実に基づき公給領収証の発行があったものと推認するのが相当というべきである。そして、アスターハウス店における昭和三二年三月以降の公給領収証の記載状況(前記三の4の(二)の(1)のイ参照)からすれば、前記の「○」印又は「立替」の表示がなされている公給領収証は、B伝票に基づく売上除外分に該当することは明らかというべきである。

原告は、この点に関し、公給領収証の現物のないものは発行されたかどうか不明であるし、仮に発行されたとしても売上除外分かどうか分からない旨主張するが、右主張は、以上の説示に照らし、理由がないことは明らかというべきである。

そこで次に三月分、七、八月分及び一一月分の推定額について検討するに、被告は別表五の(推計)の記載のある公給領収証番号に該当する公給領収証控の総計金額欄の合計額を推計するに当たり、右各月の押収されている売上除外分(被告は「裏分」と呼称している。)の公給領収証控だけを資料とし、その一冊(前記のように公給領収証一〇〇枚)当たりの総計金額欄の合計額を算出し、その最低値の一〇〇、〇〇〇円末満を切り捨てて推定分一冊当たりの総計金額欄の合計金額を算出しているものである。そして、三月分については、押収されている売上除外分公給領収証一冊当たりの合計額をもって、五冊分の総計金額欄合計額を算出しているものであることは、その主張自体から明らかであるが、このように現物の存する公給領収証控一冊で他の五冊分の総計金額欄合計額を推定算出することは、安全値をとるという点においていささか疑問なしとしない。

ところで、前記三の4の(二)の(1)のイの(い)に説示したように、公表分と売上除外分とは、現実の売上げ自体において区別されているものではなく、原告の経理事務の過程で区別されているにすぎないものであるから、両者は、基本的には同質性を有するものということができる(もっとも、前掲乙第一〇二号証、第一一二号証や証人野口武の証言(第一回)中には売上除外分には売上金額の大きい売上伝票をあてていた旨の供述が存するところであるが、これだけで公表分と売上除外分とにそのような差異があったとするには不十分といわざるを得ない。)。従って、推定分一冊当たりの総計金額欄の合計額を推計するには、公表分売上高に対応する公表分公給領収証控を推計資料に加え、これを前記の押収されている売上除外分公給領収証控に加味して算出する方が、より合理的で、かつ、安全値を求めるという点からも妥当なものというべきである。

そうすると、前掲乙第九号証の三、第三四号証、第三八号証の三の一、同号証の四の一、第三九号証の三、七、弁論の全趣旨により成立を認める乙第四九号証の二並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、三月分については公表分公給領収証控が一二・八二冊で、公表分税込売上高が七、五九一、三二二円(売上勘定計上額六、〇一〇、一五〇円にこれに対する遊興飲食税相当額及び税込脱ろう分席料額を加算して算出、以下同様の方法で算出)であり、これから前記の三月分の飲食料率六九パーセントを用いて総計金額欄合計額を算出

すると、一一、〇〇一、九一五円(円未満切り捨て、以下同じ)となるから、これに前記の押収済みの売上除外分の総計金額欄合計額を加算し、合計簿冊数で割ると公給領収証控一冊当たりの総計金額欄の平均合計金額は、八五九、一二〇円となる。

七月分につき前同様の方法で算出すると次のようになる。

公表分公給領収証控冊数 一三・九一冊

公表分税込売上高 六、四三七、六三〇円

公表分の総計金額欄の合計額 九、九〇四、〇四六円(飲食料率六五パーセント)

押収済み売上除外分公給領収証控冊数 二冊

右公給領収証控の総計金額欄合計額 二、一九八、六二五円

公給領収証一冊当たり平均総計金額欄合計額 七六〇、六九五円

八月分につき前同様の方法で算出すると次のようになる。

公表分公給領収証控冊数 一三・二六冊

公表分税込売上高 六、二七四、八六〇円

公表分の総計金額欄の合計額 九、六五三、六三〇円(飲食料率六五パーセント)

押収済み売上除外分公給領収証冊数 一冊

右公給領収証控の総計金額欄合計額 一、一七五、二六〇円

公給領収証一冊当たり平均総計金額欄合計額 七五七、三八九円

一一月分につき前同様の方法で算出すると次のようになる。

公表分公給領収証控冊数 一四・〇八冊

公表分税込売上高 七、七九五、二七五円

公表分の総計金額欄の合計額 一二、一八〇、一一七円(飲食料率六四パーセント)

押収済み売上除外分公給領収証控冊数 五冊

右公給領収証控の総計金額欄合計額 五、五一九、六八五円

公給領収証一冊当たり平均総計金額欄合計額 九二七、六六二円

そうすると、以上に算出した公給領収証一冊当たり平均総計金額欄合計額に安全値を見込んで一〇、〇〇〇円以下を切り捨てると、三月分につき八五〇、〇〇〇円、七月分につき七六〇、〇〇〇円、八月分につき七五〇、〇〇〇円、一一月分につき九二〇、〇〇〇円となる。

次に、右各月の推計の基礎となる公給領収証の簿冊数について検討するに、前掲乙第三八号証の三の一によれば、三月分については被告が別表五に主張する五冊のほか、一五八二六三~一五八三〇〇の記載が存するが、同乙第三八号証の二の一によれば、右番号が含まれている公給領収証の簿冊は二月と三月の両月にまたがって使用されたものと認められるところであるが、三月に使用された分を確定することができないから、右番号の公給領収証については三月分から除外するのが相当である。七、八月分については、前掲乙第二八号証の四の一、第三九号証の三及び第一一〇号証によれば、被告が別表五に主張するとおりと認められ、一一月分については前掲乙第三九号証の七及び同号証の一〇によれば、前記のように一一月の「立替」の表示のある番号のうち一四七二〇一~一四七三〇〇及び二二一〇〇一~二二一一〇〇は一二月分にも記載されているものと認められるから、右番号の公給領収証については一一月分から除外するのが相当である。そうすると結局、被告が別表五において主張するとおりとなる。

以上の認定事実によれば、前記各月の推定分総計金額欄合計額は、次のようになる。

三月分 四、二五〇、〇〇〇円(八五〇、〇〇〇×五)

七月分 七六〇、〇〇〇円(七六〇、〇〇〇×一)

八月分 一、五〇〇、〇〇〇円(七五〇、〇〇〇×二)

一一月分 九二〇、〇〇〇円(九二〇、〇〇〇×一)

b 前記の当事者間に争いがない裏分(売上除外分)の公給領収証控総計金額欄の合計額に右推定分にかかる総計金額欄の合計額を加えて各月毎の売上除外分総計金額欄の合計額を算出し、これに既に説示した各月の飲食料率を乗じて各月毎の売上除外分税込売上高を算出(円未満切り捨て)すると、次表のとおりとなる。

〈省略〉

(う) 右三月から一二月までの売上除外分税込売上高三一、〇一三、二九八円から遊興飲食税相当額を控除すると二六、九六八、〇八五円となり、これに右期間中の公表分税抜売上高六五、〇六一、〇二〇円(前記三の4の(二)の(1)のイの(あ))を加え、さらに、一月及び二月分税抜売上高一七、一五〇、〇一七円(同4の(二)の(1)のアの(う))を加えて合計するとアスターハウス店の昭和三二年度中の税抜売上高は一〇九、一七九、一二二円となる。

(2) マークイズ店及びアスタークラブ店

成立に争いのない乙第一〇七号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第四四号証、前掲乙第一二号証、第一〇二号証及び第一一七号証並びに証人野口武の証言(第一回)を総合すれば、次の事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

マークイズ店は昭和三二年六月、アスタークラブ店は同年一〇月開店(以上の事実は当事者間に争いがない。)したものであるが、右両名は、いずれもアスターハウス店と同一の建物内にあり、植手富美子が両店の経営を取りしきっていたもので、ビール、つまみ等の飲食物料金及び席料額はアスターハウス店と同じであり、社交員のサービス料についてもアスターハウス店と同じ自由チップ制を採用し、顧客からの飲食料金の回収は、社交員の責任とされていた。経理面では、売上伝票及び通し伝票等の伝票類は、アスターハウスと同一のものを使用し、店内で収納した現金は、閉店後すべて植手富美子のもとに集められる仕組みになっていた。そして、店内で作成された伝票類は、翌日原告の事務所で菅野智恵子により公表帳簿に計上するA伝票と売上除外分のB伝票とに区別されて記帳整理されていたものであるが、右の売上除外額については、格別右植手から指示はなかったものの、アスターハウス店同様、現金売上分のうち公給領収証の交付のない分を除外し、席料についても顧客一人につき三〇〇円を徴収していたのに、売上勘定には一〇〇円を計上し残りを除外していたものである。

右事実によれば、マークイズ店及びアスタークラブ店においても、アスターハウス店と同様に売上伝票を公表分と売上除外分に区別し、前者に基づく売上げだけを公表帳簿に計上して後者を除外し、また、席料についても売上除外が行なわれていたことは明らかである。

ア ところで、被告は、右各店の売上高を公給領収証基準により算出しているので検討するに、被告は、各店の公給領収証控の総計金額欄の金額を各月毎に合計し、これにアスターハウス店の各月毎の飲食料率を乗じて税込売上高を算出していることは、その主張自体から明らかであるところ、マークイズ店及びアスタークラブ店において公給領収証が売上げの事実に基づいて確実に発行されていたとの点については、アスターハウス店と基本的には同一の経理方法が採用されていたことを窺うことができる前記の確定事実に併せて、既に説示したアスターハウス店の経理及び公給領収証発行手続に徴して一応推認し得るところである。

そこで、飲食料率につきアスターハウス店のそれを右各店に適用することの是非についてみるに、前記認定の各事実によればアスターハウス店と右両店の間には、店舗が同一建物内にあり、経営責任者が同一であること、ビール、つまみ等の飲食物料金及び席料額が同一であること並びに社交員のサービス料については自由チップ制が採用されていたこと等の類似性が存し、これからすると、アスターハウス店の飲食料率をマークイズ店及びアスタークラブ店に適用することには一応合理性があるようにみえなくもないのである。

ところで、飲食料率とは、既に説示したように、顧客が支払う総計金額中に占めるサービス料金(立替金を含むことがある。)以外の飲食料金等の割合をいうものであるから、この割合はサービス料の割合によって決定されることになる。そこで、サービス料額の決定要因についてみるに、右要因としては、接客サービスの性格からすると、主として社交員の提供するサービスの質及び量並びに顧客の支払う飲食代金の多寡や顧客層等により影響を受け、これらのちがいにより変動するものと思料される。そこで、かかる観点から検討するに、前記の店舗位置の同一性や自由チップ制採用の事実は、直ちにサービスの質及び量の同一性に結びつくものではないし、また、右事実から顧客層が同一であると断ずることも困難である。

他方、前掲乙第四四号証及び第一〇二号証によれば、アスターハウス店の在籍社交員は約二〇〇名程度であったのに対し、マークイズ店五、六〇名、アスタークラブ店二、三〇名と規模において相当のちがいがあるばかりか、前掲乙第三四号証(遊興飲食税公給領収証控調書)によってアスターハウス店の昭和三六年六月以降の各月毎の公給領収証一冊当たりの総計金額欄合計金額を算出し(各月毎に使用された簿冊数で記載されている総計金額欄合計額を除す。)これとマークイズ店及びアスタークラブ店のそれを比較すると、アスターハウスの一冊当たり総計金額欄合計額が一〇二万円余りから一一二万円余りであるのに対し、マークイズ店は五五万円余から七五万円余り、アスタークラブ店では五五万円余りから六三万円余りであることが認められ、この事実からすると、アスターハウス店とマークイズ店及びアスタークラブ店の間には顧客一組当たりの売上高に相当の開きがあり、しかもその開きは右数字からすると顧客層の相違を推認させるものというべきである。

そうすると、以上の事実によれば、マークイズ店及びアスタークラブ店は、アスターハウス店に比べて、規模においても、顧客層においても、また、顧客一組の支払金額においても相当の差異があるから、アスターハウス店の飲食料率が右両店と同程度であると断ずることは困難というべきであり、他にこれを首肯せしめるに足りる証拠もない。

もっとも、前掲乙第一〇二号証(菅野智恵子の質問てん末書)中には、右両店とアスターハウス店のチップの額が同一であった旨の供述が存するが、右菅野は既に説示したように原告の事務所係であって右両店の営業自体に関与したわけではないし、右記載の具体的根拠も明らかではないから、右証拠だけで飲食料率の同一性を認定することは困難というべきである。

イ そうすると、マイクイズ店及びアスタークラブ店においても前記のように売上除外の存したことは明らかであるが、右除外額を的確に把握するに足りる証拠がない本件においては、原告計上の売上高をもって満足する他ないものというべきところ、原告が計上したマークイズ店の税抜売上高が三、七九五、二七〇円であり、アスタークラブ店の税抜売上高が一、二〇四、三八五円である事実は、当事者間に争いがないから、右各金額をもって右両店の売上高とするのが相当である。

(3) 夜間飛行店

夜間飛行店の売上高については、被告は原告計上額九、〇五一、七四七円(税抜き)を認容しているところ、原告は、右金額を計上した事実は認めるが、右数字は納税のための形式的数額にすぎず、右数字に見合う実際の売上高が存したか否は別箇の門題であると主張する。しかし、通常税負担を伴う場合において、自ら売上高を申告した以上、特段の事情がない限り少くなくとも申告売上高に見合う売上げが存したものと推認するのが相当であるところ、本件において右の特段の事情を認めるに足りる証拠はないばかりか、かえって前掲乙第四六号証によれば、夜間飛行店においても金券と称する売上伝票を公表分と売上除外分とに区別し、売上げの脱ろうを図っていた事実が認められるのであるから、原告の右主張は到底採用できない。

(三)  公給領収証基準の適用に対する原告の反論について

(1) 原告は、被告が公給領収証基準を適用するに当たり、アスターハウス店の一、二月分とマークイズ店及びアスタークラブ店についてはすべての公給領収証控の総計金額欄の合計額に飲食料率を乗じて算出しているのに対し、アスターハウス店の三月から一二月までについては公給領収証控を恣意的に公表分と立替分ないし裏分とに区分し、右立替分ないし裏分についてのみ公給領収証基準を適用し、右三月から一二月までの期間の公表分と夜間飛行店には公給領収証基準を適用していないのであるが、右は原告の一年度の売上げを過大に認定するために右基準を区々に適用している(右基準を適用すべきであるなら夜間飛行店にも適用すべきであり、そうすればその売上げは0とするほかはないはずである。)もので合理性を欠くと主張する。

しかし、マークイズ店とアスタークラブ店に公給領収証基準を適用し得ないことは既に説示したとおりであり、また、アスターハウス店の公表分に右基準を適用しないのは、公表分については、原告の公表帳簿等により推計の方法を採用するまでもなく実額で所得を算出し得るからであることは既に前記三の4の(二)の(1)のイの冒頭及び同イの(あ)で説示したとおりである。従って、アスターハウス店の一、二月分並びに同店の三月から一二月までの立替分ないし裏分(売上除外分のことであることは説示したとおりである。)と三月から一二月までの公表分とを区別し、前者にのみ公給領収証基準を適用することは合理的というべきである。また、原告は、夜間飛行店にも公給領収証基準を適用しないと一貫性を欠くと主張するが、夜間飛行店については公給領収証控が捕捉されていないのであるから、右基準を適用する前提要件が欠けているものであって、これを適用しないのは当然というべきである。従って、原告主張は失当である。

(2) 次に原告は、被告は公表分公給領収証を具体的に特定しないまま恣意的に立替分ないし裏分公給領収証を決定し、これにかかる売上げをすべて脱ろう分としているが、公表分公給領収証を特定しなければ裏分の特定は不可能であるから、被告の右方法は誤っている旨主張する。しかし、既に三の4の(二)の(1)のソの冒頭及び同(い)のaに説示したように、原告の経理係においては、昭和三二年三月以降の領収証については公表分には社交員名、席番、合計金額欄、総計金額欄のすべてを記載(但し、一部に総計金額欄の記載が欠けているものがある。)していたのに対し、立替分すなわち売上除外分については総計金額欄のみ記載して両者を区別し、公給領収証もそれぞれ別冊を使用していたものであること、公表分の公給領収証控はすべて押収されており、これに対応する親伝票との照合が可能であるものと推認し得ること等からすると、公表分公給領収証と売上除外分との区別は明白というべきであり、これを恣意的ということはできない。原告は、被告が飲食料率を算定するために使用した公表分の公給領収証控の総計金額欄合計額をもってすべての公表分公給領収証控の総計金額欄合計額であるというが、右は公表分公給領収証控のうち飲食料率の算定に適した記載の完備したものの合計額であり、前記のような一部総計金額欄の記載の欠けたものは除いてあるのであるから、原告の主張は理由がない。

なお、前記の飲食料率算定のために使用した五月分の公給領収証控の総計金額欄合計額及び税込調査料金の算出方法につき一言するに、原本の存在及び成立に争いのない乙第一〇八号証、前掲乙第四一号証及び証人野口武の証言(第一回)によれば、右五月以外の各月の飲食料率の算定においては、公表分公給領収証控のうち記載の完備した分の総計金額欄合計額を算出し、この公給領収証控に対応する親伝票の売上金額に脱ろう席料を加えて後者を前者で除して算定したものであるが、右五月については、まず他の月と同様にして飲食料率を算出し、次にこの算出した飲食料率と五月分のすべての親伝票から算出した売上金額(前同様脱ろう分席料加算)とで総計金額欄合計額を算出(算式・総計金額欄合計額=前記の5月分売上高÷飲食料率×100)

して計上したため、他の各月より大きな金額で計上されることになったことが認められるところ、右算定の経緯からすれば、五月分の飲食料率の算定に誤りがないことは明らかである。

(四)  以上の説示によれば、原告の昭和三二年度の売上高は、アスターハウス店の一〇九、一七九、一二二円とマークイズ店の三、七九五、二七〇円、アスタークラブ店の一、二〇四、三八五円及び夜間飛行店の九、〇五一、七四七円を加算すると合計税抜売上高は一二三、二三〇、五二四円となり、これから当事者間に争いがない原告計上額九八、九六二、五七八円を控除すると、売上脱ろう額は二四、二六七、九四六円となる。

(五)  雑収入計上もれ

前掲乙第一七号証、第二五、二六号証及び証人野口武の証言(第一回)により成立が認められる乙第一六号証の一、二によれば、原告が昭和三二年度中に明治屋から支払いを受けたビール及び日本酒の仕入れにかかる割戻金は合計八九九、〇一〇円であるところ、原告はこのうち七九八、〇三〇円しか公表帳簿に計上していなかった事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。従って、右の差額一〇〇、九八〇円は計上もれであるからこれを加算すべきものとしたのは相当である。

(六)  受取利息計上もれ

(1) 原告が売上除外によって得た金員により東海銀行銀座支店等に無記名ないし架空人名義による簿外預金を設定していたものであることは、既に三の2の(四)の(1)に詳示したとおりである。

(2) そこで以下、被告主張の各預金について原告への帰属及び利息等の発生の有無について検討する。

ア 付番28及び46について

右各預金が原告に帰属することは前記三の3の(七)の(2)のカに認定したとおりであり、前掲乙第一三三号証の一によれば付番28から昭和三二年二月二八日、付番46から同年九月四日に各支払われた割増金及び利息の額は別表三の3記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

イ 付番29について

右預金が原告に帰属することは前記三の2の(四)の(2)のウに認定したとおりであり、前掲乙第一三〇号証の一によれば、右預金から昭和三二年五月九日支払われた割増金及び利息の額は別表三の3記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

ウ 付番25について

右預金が原告に帰属することは前記三の3の(七)の(2)のエに認定したとおりであり、前掲乙第一三三号証の二によれば右預金から昭和三二年二月二八日支払われた割増金及び利息の額は別表三の3記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

エ 付番24について

右預金が原告に帰属することは前記三の3の(七)の(2)のウに認定したとおりであり、前掲乙第一三三号証の二によれば、右預金から昭和三二年二月二八日支払われた割増金及び利息の額は別表三の3記載のとおりと認められ他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

オ 付番26、27について

成立に争いのない乙第八〇号証の七、前掲乙第八二号証及び証人野口武の証言(第二回)により成立が認められる乙第一三三号証の三並びに右証言によれば、付番26は昭和三一年八月二一日、付番27は同月二五日それぞれ東海銀行銀座支店に設定されたものであるが、右各無記名定期預金証書に押印されている印影は、高橋幸雄名義の普通預金(通帳番号一〇四一〇号)に届出使用された印鑑の印影と同一であることが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

右高橋幸雄名義の普通預金が原告に帰属することは既に説示したとおりであるから、右事実によれば、他に反証がない以上、付番26、27の各預金は原告に帰属するものと推認するのが相当である。

そして、右乙第一三三号証の三によれば、付番26から昭和三二年二月二八日、付番27から同年九月四日各支払われた割増金及び利息の額は別表三の3記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

カ 付番23について

右預金が原告に帰属することは前記三の2の(四)の(2)のエに認定したとおりであり、前掲乙第一三〇号証の二によれば、右預金から昭和三二年九月五日支払われた割増金及び利息の額は別表三の3記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

キ 付番38について

前掲乙第八二号証及び第一三〇号証の二並びに証人野口武の証言(第二回)によれば、右無記名定期預金証書に押印されている印影は、高橋幸雄名義の普通預金(通帳番号一〇四一〇号)に届出使用されている印鑑の印影と同一であることが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

右高橋幸雄名義の普通預金が原告に帰属することは既に説示したとおりであるから、右事実によれば、他に反証がない以上右預金は原告に帰属するものと推認するのが相当である。

そして、成立に争いない乙第八〇号証の八及び右乙第一三〇号証の二によれば、右預金から昭和三二年八月三日支払われた割増金及び利息の額は別表三の3記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

ク 付番22について

右預金が原告に帰属することは前記三の3の(七)の(2)のキに認定したとおりであり、前掲乙第一三〇号証の三によれば、右預金から昭和三二年二月二八日支払われた割増金及び利息の額は別表三の3記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

ケ 東海銀行銀座支店の高橋幸雄名義の普通預金について

右預金が原告に帰属することは前記三の2の(四)の(1)に認定したとおりであり、前掲乙第八〇号証の一、二によれば、右預金から昭和三二年三月一一日及び同年九月一一日別表三の3記載のとおり利息が発生し、右預金に入金されている事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(七)  仕入否認

まず、明治屋からの仕入額についてみるに、証人野口武の証言(第一回)により成立が認められる乙第一八号証の一、二、前掲乙第一九号証、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第五七号証及び第一二六号証並びに証人野口武の右証言によれば、原告の明治屋からの純仕入額(仕入額から空びん値引額等を控除したもの)は一四、八六六、四八九円であるところ、原告は右額を一五、〇三八、三二三円と計上していたことが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

次にぬ利彦からの仕入額についてみるに、前掲乙第二三号証及び第一二八号証並びに証人伊藤一夫の証言によれば、昭和三二年度中のぬ利彦からの純仕入額は一、三九四、〇七七円であるところ、原告は右額を一、四九五、八八〇円と計上していたことが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、原告は右年度の仕入額を二七三、六三七円過大に計上していたものであるから、右過大計上額を加算したのは相当である。

(八)  経費中否認

弁論の全趣旨により原本の存在及び成立が認められる乙第五八、五九号証によれば、原告は、昭和三二年度の期末において、交際接待費勘定に接待ビール代として一、六〇〇、〇八〇円、社交員サービス代として一、五〇〇、〇〇〇円及び社長関係費として三、〇〇〇、〇〇〇円を、雑費勘定にスカウト費として七、〇〇〇、〇〇〇円をそれぞれ一括して計上している事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

そこで、右の各計上額に見合う支出の有無について検討するに、まず、接待ビール代一、六〇〇、〇八〇円についてみるに、前掲乙第三一号証及び証人野口武の証言(第一回)によれば、店内接待用ビールは使用の都度計上されているところであり、また、店外贈答用に支出されたビールの数量は総計二六〇ケースであるところ、前掲乙第一九号証によればビール一本当たりの仕入原価は一一三円であるから右店外贈答用ビールの仕入原価は七〇五、一二〇円(算式 260×24×113=705,120)と認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

従って、原告の計上額は八九四、九六〇円過大であることになる。

次に、社交サービス代一、五〇〇、〇〇〇円についてみるに、前掲乙第五八号証及び第一〇九号証によれば、原告の接待客のために原告が社交員に支払うべき社交サービス料については、植手富美子からのメモに基づきその都度接待帳に記帳し、これに基づいて交際接待費勘定に計上していたところ、前記の期末一括計上分一、五〇〇、〇〇円については接待帳に計上されていないし、原告の経理事務所の担当者によって計上されたものではないこと、原告は昭和三二年一一月ころ被告の税務調査を受けて以来、架空接待費の計上を行なっているなどの事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の事実からすれば、前記一括計上分一、五〇〇、〇〇円についてはこれを認めるに足りる的確な証拠もないから右支出はなかったものと推認するのが相当である。

社長関係費三、〇〇〇、〇〇〇円についてみるに、前記のように右金額が期末に一括計上されているものであるが、本件全証拠によっても右支出の有無及びその具体的内容は明らかではないうえ、前記のように原告が昭和三二年度末において架空経費の計上を行なっている事実を考慮すると、右支出の事実は疑わしいものといわざるを得ないし、仮に支出があったとしても、前記のような高額な金員を具体的使途も定めないで代表者に支出する行為は法人の利益分とみるのが相当というべきである。

最後にスカウト費七、〇〇〇、〇〇〇円についてみるに、前掲乙第二四号証及び第三一号証中には、右支出があった旨の記載が認められるところであるが、右各証拠は、成立に争いない乙第三〇号証の記載に照らして採用し難く、右乙第三〇号証によれば、昭和三二年度中のスカウト費は二、〇〇〇、〇〇〇円と認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はないから、原告の前記計上額は五、〇〇〇、〇〇〇円につき過大といわねばならない。

以上のとおりであるから、被告が原告の計上した経費のうち接待ビール代八九四、九六〇円、社交サービス代一、五〇〇、〇〇〇円、社長関係費三、〇〇〇、〇〇〇円及びスカウト費五、〇〇〇、〇〇〇円を否認したのは相当である。

(九)  減価償却の償却超過費

証人野口武の証言(第一回)により成立が認められる乙第五四号証、同号証により原本の存在及び成立が認められる乙第五二号証の二、四及び第五三号証によれば、原告は、昭和三二年六月ころ落合商店から椅子、卓子、スツール及びクロース等を代金三、四八四、八四〇円で購入したことが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、前掲乙第五四号証及び証人野口武の右証言により成立が認められる乙第五一号証並びに右証言によれば、原告は右関係の経理を、昭和三二年一二月三一日付で前記の椅子、卓子等の器具備品を仕入価額一、二三三、五〇〇円で購入したものと仮装し、同年期末現在の帳簿価額を九六七、九九〇円、期中の償却額を二六五、五一〇円(以上の期末現在の帳簿価額及び期中の償却額については、当事者間に争いがない。)としていた事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

そうすると、前記の実際仕入価額と原告計上の仕入価額との差額二、二五一、三四〇円を簿外の損金として認容(なお、右金額と前掲乙第五一号証により認められる修繕費の損金認容額四三、〇〇〇円の合計二、二九四、三四〇円が経費計上もれとして原告の昭和三二年度の所得金額から減算されることは第五の(課税根拠について)の三の1の表のうちⅢの8記載のとおりであり、右事実は、当事者間に争いがない。)するとともに、原告が計上した前記期中償却額と右損金認容額との合計額から当期償却額七五〇、一一一円(算式 〈省略〉)を控除して償却超過額を算出するとその額は一、七六六、七三九円となることは明らかであるから、被告が右金額を加算したのは相当である。

(十)  申告書計算誤謬

原告が昭和三二年度の確定申告書の所得計算において減価償却超過額の当期認容額を三四三、〇八一円と計上していること、しかし、右申告書附属の償却に関する明細書によれば右の当期認容額は三四三、〇六一円が正しいことの各事実は当事者間に争いがないから、これによれば、右の差額二〇円を加算すべきことになる。

(二) 以上の(二)及び(四)ないし(十)によれば、原告の昭和三二年度の申告所得金額に加算すべき金額は合計三八、三三四、八二三円となるところ、減算すべき金額が六、七八四、六八二円である事実は当事者間に争いがないからこれを控除すると、昭和三二年度の所得金額は四五、八五九、一八五円と認められ、右は更正所得金額を一、五三五、〇九三円下回っていることになるから、本件更正は右の限度で原告の所得を過大に認定した違法がある。

(三) 重加算税賦課決定

前記の三の4の(二)の(1)、(四)、(六)、(八)、(九)に説示の各事実に照らせば、原告がこれらについて課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし又は仮装したところに基づいて確定申告書を提出していたことは明らかである。

前記認定に係る所得金額四五、八五九、一八五円を基礎とする部分の重加算税賦課決定は正当であるが、これを超える部分は違法であって取り消しを免れない。

5  昭和三五年度

(一)  被告の主張(課税根拠について)四の1のうち、Ⅰの申告所得金額及び減算金額は当事者間に争いがない。なお、原告は、右の申告所得金額を認める趣旨は単なる形式的数額を認めるに過ぎず、これに見合う売上げの存した事実まで認めるものではない旨主張するが、右主張が認められないことは、既に昭和三〇ないし三二年度について説示したとおりである。

(二)  受取利息計上もれ

(1) 原告が売上除外により得た金員を東海銀行銀座支店等に簿外預金してきたことは既に前記三の2の(四)の(1)に説示したとおりである。

(2) そこで以下、被告主張の各預金について原告への帰属及び利息等の発生の有無について検討する。

ア 付番76ないし90、同93ないし102及び同103ないし107について

成立に争いのない乙第七六号証の一、二の各一、二、第七八号証の一、二、第九四号証、前掲乙第九一号証ないし第九三号証、証人佐々木善春の証言により成立が認められる乙第九五、九六号証及び証人野口武の証言(第二回)により成立が認められる乙第一三一号証の五ないし九並びに証人野口の右証言を総合すれば、原告代表者加藤幸三郎は、前記三の2の(四)の(1)に説示したように昭和二七、八年ころから植手富美子に命じて売上げを除外し、これによって得た金員を東海銀行銀座支店等へ簿外預金してきたものであるところ、昭和三三年六月ころ東京国税局の査察調査を受けた際にも右薄外預金の存在については秘匿し続けていたが、発覚を恐れ、昭和三四年二月ころから五月ころの間に東海銀行銀座支店の担当者と謀って、当時右支店に預金されていた約四〇〇〇万円のうち預金担保に供されていた約一〇〇〇万円程度を除く残りを東海銀行馬喰町支店、同千住支店、同上野支店三河島出張所等へ預け替えたこと、右預け替えの手続は、東海銀行銀座支店の行員が適当な印鑑を購入して前記各支店等に無記名定期預金として設定し、その都度印鑑及び証書を植手富美子に手渡していたこと及び付番76ないし90、同93ないし102、同103ないし107の三〇口の無記名定期預金の預金証書及び印鑑(但し、付番83ないし90、同93ないし98及び101、102については無記名定期預金証書のみ)が東京地方検察庁により原告から押収されていることの以上の事実が認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、右付番76ないし90、同93ないし102及び103ないし107の各無記名定期預金は他に反証がない以上、原告に帰属するものと推認するのが相当というべきである。

もっとも、前掲乙第九三号証には、付番76ないし82の城南信用金庫の各預金は原告代表者個人の資産である旨の供述記載が存するが、右各預金の設定時期、預金証書及び印鑑が前記のように原告から押収されている事実、さらには原告代表者が架空人名義を使用しなければならない合理的理由が明らかにされていない等の事実からすると、右供述記載は、採用し難く、前記の認定を左右するには足りないものというべきである。

そして、前掲乙第七六号証の一、二の各一、二、第七八号証の一、二及び証人森道生の証言により成立が認められる乙第一三一号証の一ないし四によれば、前記の付番76ないし90、同93ないし102及び103ないし107の各預金から支払われた割増金ないし利息の支払年月日及び額は別表三の4記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

イ 付番108について

前掲乙第一三〇号証の一、第一三三号証の四、証人森道生の証言により成立が認められる乙第一三一号証の六によれば、東海銀行銀座支店に設定されたLG九〇二八の預金は順次同支店の五四回ミリオン六五四七番の預金、五五回×七二八二番の預金、付番108の預金へ預け替えられている事実が認められ、他にこの認定を左右する証拠はないところ、右のLG九〇二八の預金が原告に帰属することは前記三の2の(四)の(2)のウに認定したとおりであるから、右事実からすれば、他に反証がない以上、付番108の預金は原告に帰属するものと推認するのが相当である。

そして、右乙第一三一号証の六によれば、付番108から昭和三五年三月一八日支払われた割増金及び利息の額は別表三の4記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

ウ 付番109について

前掲乙第八九、九〇号証、第一三三号証の四及び証人森道生の証言により成立が認められる乙第一三一号証の五並びに右証言によれば、東海銀行銀座支店に設定してあったQ三三二二(元本三、〇〇〇、〇〇〇円)及びAL九二二七(元本五、〇〇〇、〇〇〇円)の各定期預金はいずれも原告に帰属するものであること、右二口の預金は、いずれも昭和三三年九月五日解約され、同日付で五四×六五四六(元本三、〇〇〇、〇〇〇円)と五四×六五四五(元本五、〇〇〇、〇〇〇円)に預け替えられ、さらに右の預け替えられた定期預金はいずれも昭和三四年三月五日解約され、同日右二口の預金元本合計八、〇〇〇、〇〇〇円で五五×二七八一の定期預金が設定され、右預金は付番109の預金に預け替えられた事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、付番109の預金は、他に反証がない以上、原告に帰属するものと推認するのが相当である。

そして、前掲乙第一三一号証の五によれば、右預金から昭和三五年一〇月二八日支払われた割増金及び利息の額は別表三の4記載のとおりと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(三)  貸付金利息計上もれ

成立に争いのない乙第九七号証ないし第一〇〇号証の各一ないし三、証人野口武の証言(第二回)及び同森道生の証言によれば、原告は、原告代表者加藤幸三郎に対し、昭和三五年度以前から合計二一、七二五、〇三一円か無償で貸し付け、右金員は昭和三五年度中は返済されていない事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠がない。

右事実によれば、右の無利息融資が経済的合理性を失しない特段の合理的理由に基づいて行なわれたことを認めるに足りる証拠のない本件においては、原告が右加藤に対し、右貸付金に対して通常取得すべき利息相当額の経済的利益を贈与したものというべきであるから、右の贈与により原告において右利息相当額の収益が実現したものと解するのが相当である。

原告は、仮に貸し付けたとしても、無償で貸し付けたものであるから原告は利息債権を取得するものではないと主張するが、当事者間の合意により私法上の利息債権が発生しないとしても、前記のように税法の見地から実質的に利益処分がなされたと認められる時点で収益の発生を認識することは何ら差しつかえなく、右の収益は旧法人税法第九条第一項の総益金を構成するものである。また、このことは、法人の代表者に対する無償貸付行為は法人が第三者に金銭を貸し付けその利息を代表者に贈与した場合と経済的実質において何ら異なることはないのに、原告のように解すると後者の場合にのみ課税されるという不合理を生ずるものであって、右原告の主張は採用の限りでない。

そこで、通常取得すべき利息の額について検討するに、成立に争いない乙第一〇五号証及び前掲各証拠によれば、原告が右貸付金に対して通常取得すべき利率は年一〇パーセントとするのが相当であるから、昭和三五年度中の取得額は二、一七二、五〇三円となる。

(四)  以上の(二)及び(三)によれば、原告の昭和三五年度の申告所得金額に加算すべき金額は四、七二二、五三六円となり、減算すべき金額が二九〇、〇五九円であることは当事者間に争いがないからこれを控除すると、昭和三五年度の所得金額は一六、〇四一、〇三八円となり右金額は更正による所得金額(裁決によって維持された金額)を上回っていることは明らかであるから、本件更正に所得金額を過大に認定した違法はない。

(五)  過少申告加算税賦課決定

前記(二)ないし(四)の事実によれば、本件更正に違法の点がないことは、前判示のとおりであるから、本件賦課決定に違法はない。

6  昭和三六年二月分

(一)  原告が前記加藤に対し昭和三五年度中に二一、七二五、〇三一円を無償で貸し付け、この結果同人に二、一七二、五〇三円相当の経済的利益を供与したものであることは前項に説示したとおりであるところ、右経済的利益は臨時的給与に該当するものというべきである(法人税施行規則(昭和二二年勅令第一一一号)第一〇条の三第三項、但し、昭和三四年政令第八六号による改正後のもの)から、原告は、所得税法(昭和二二年法律第二七号)第九条第一項第五号、第三八条により、少くなくとも昭和三五年度の決算確定時であることが弁論の全趣旨により明らかな同三六年三月二八日までに右経済的利益に係る所得税を源泉徴収すべき義務を負うものであるから、国税通則法第三六条第一項第二号に基づきなされた本件納税告知に違法はない。

なお、原告は前記の経済的利益の供与に関し、法人税及び所得税を賦課することをもって二重課税であると主張するが、法人と法人から賞与を受けた役員が別箇独立の納税義務主体であることは明らかであるから右主張は失当である。

(二)  不納付加算税賦課決定

前項の事実に照せば、本件納税告知に違法の点はないから、本件不納付加算税賦課決定に原告主張の違法はない。

四  結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求は、原告の昭和三二年度についてした更正及び重加算税賦課決定のうち、所得金額四五、八五九、一八五円を超える部分の取消しを求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容することとし、その余の請求はすべて失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田耕三 裁判官原健三郎、同田中信義は、転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 藤田耕三)

別表一の1

昭和三〇年度

〈省略〉

同2

昭和三一年度

〈省略〉

同3

昭和三二年度

〈省略〉

同4

昭和三五年度

〈省略〉

同5

昭和三六年二月分源泉所得税

〈省略〉

別表二の1

席料計上洩れの月別明細

(昭和三〇年度分)

〈省略〉

別表二の2

席料計上洩れの月別明細

(昭和三一年度分)

〈省略〉

別表二の3

席料計上洩れの月別明細

(昭和三二年度分)

〈省略〉

別表三の1

原告の別途預金の割増金及び受取利息の明細 (昭和三〇年度)

〈省略〉

別表三の2

原告の別途預金の割増金及び受取利息の明細 (昭和三一年度)

〈省略〉

〈省略〉

別表三の3

原告の別途預金の割増金及び受取利息の明細

〈省略〉

〈省略〉

別表三の1′ 昭和30年度分領金利息の算出内訳表

〈省略〉

注 期日後利息計算上の日数と預入期間の符号しないもの(※印部分)は継続の関係である。

別表三の2′ 昭和31年分預金利息の算出内訳表(その1)

〈省略〉

昭和31年度分預金利息の算出内訳表(その2)

〈省略〉

別表三の3′ 昭和32年度分預金利息の算出内訳表(その1)

〈省略〉

昭和32年度分預金利息の算出内訳表(その2)

〈省略〉

別表三の4

原告の別途預金の割増金及び受取利息の明細 (昭和三五年)

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別表三の4′ 昭和35年度分預金利息の算出内訳表(その1)

〈省略〉

昭和35年度分預金利息の算出内訳表(その2)

〈省略〉

昭和35年分預金利息の算出内訳表(その3)

〈省略〉

別表四

〈省略〉

別表五 公給領収証発行記番号別明細

〈省略〉

別表六

ビール戻入明細

一月 一九日七ケース、一四ケース。二一日一九ケース。三一日一〇ケース。 計五〇ケース

二月 一八日一三ケース。二二日八ケース、九ケース。 計三〇ケース

三月 一日一〇ケース。八日一三ケース。一二日七ケース。二四日二〇ケース。三〇日五ケース。 計五五ケース

四月 一一日一七ケース。一五日一二ケース。二〇日一〇ケース。二五日一二ケース、一二ケース。二七日六ケース。

計六九ケース

五月 七日六ケース、一二ケース。一三日一一ケース。一九日九ケース。二〇日七ケース。 計四七ケース

六月 二二日一一ケース。二七日一三ケース。二八日一〇ケース。二九日一〇ケース。 計四四ケース

七月 九日一ケース。 計一ケース

八月 七日七ケース。 計七ケース

九月 なし

一〇月 一五日二四ケース。二九日一一ケース。 計三五ケース

一一月 一一日一一ケース。 計一一ケース

一二月 三一日七五ケース。 計七五ケース

以上合計 四二四ケース

別表七

A 公表分の売上高(遊興飲食税込み、席料修正のもの) 一〇、一六〇、八五六円(〈1〉+〈2〉)

〈1〉 税込公表分売上高(会社計上額) 九、五二五、五九六円

〈2〉 公表分席料計上洩れ額 六三五、二六〇円

B 公表分のビール使用本数 六、三三〇円

C 公表分のビール一本当り売上高(A÷B) 一、六〇五円

D 実際のビール使用本数 八、三一一円

E ビール基準による税込売上高(C×D) 一三、三三九、一五五円

別表八

〈省略〉

(△はマイナスを表わす。)

別表九

ビール基準「月毎計算方式」算定明細 (昭和三〇年度分)

〈省略〉

同表の2

〈省略〉

同表の3

〈省略〉

別表一〇

〈省略〉

別表一一の1

〈省略〉

別表一二の1

〈省略〉

同表の2

〈省略〉

別表一三

〈省略〉

別表一四

〈省略〉

但し、昭和三一年九月分の総計金欄合計額の中には推定分二、一〇〇、〇〇〇円が含まれている。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例